【エビデンス】フッ化物バーニッシュの効果と安全性 ~う蝕予防にフッ化物バーニッシュは有効なのか~

投稿者: | 2022年4月17日
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 2020年,世界的に展開されていたフッ化物バーニッシュの「クリンプロホワイトバーニッシュF(3M)」が日本で販売開始となり,続いて2021年,ウルトラデントからもフッ化物バーニッシュ「エナメラスト」が販売開始となりました.

 実は,日本におけるフッ化物バーニッシュの歴史は古く1981年に発売された「Fバーニッシュ(ビーブランドメディコーデンタル/東洋製薬化成)」が最初で現在も販売されています.残念ながらFバーニッシュの後発品で1998年販売開始の「ダイヤデント(昭和薬品化工)」は2020年に販売中止になっています.

 適応はいずれも知覚過敏抑制剤ですが,22,600ppmと高濃度のフッ化物製剤であることから,う蝕予防剤として活用している歯科臨床医も多くいます.今回は高濃度フッ化物製剤である「フッ化物バーニッシュ」のう蝕予防用途における効果と安全性についてフォーカスを当ててみたいと思います.

 

1.フッ化物バーニッシュについて

(1)概要

 フッ化物バーニッシュは22,600ppmのフッ化ナトリウムにロジン(松ヤニ,colophony),エタノールなどの溶媒,香料などを加えたネバネバとした製剤です.歯面に塗布されたフッ化物バーニッシュは時間とともに硬化し,象牙細管内や歯質表面に析出したフッ化カルシウムが持続的にフッ素イオンを歯面に供給します.知覚過敏抑制剤として機能する場合,このフッ化物のコーティングによって知覚過敏を抑制します.

fig.1 筆で塗りやすい新しい世代のフッ化物バーニッシュ(クリンプロホワイトバーニッシュF)

 Duraphat(Colgate),Fバーニッシュなどの旧来のフッ化物バーニッシュと異なり,クリンプロホワイトバーニッシュF(3M),エナメラスト(ウルトラデント)などの新しい世代のバーニッシュ剤は白色で柔らかく,ネバ付きが抑えられ,ディスポーザブルの筆などで歯面全体に塗布しやすい設計になっています.また,製剤も1回使用量ごとに個包装されています.

(2)推奨と適応

 フッ化物バーニッシュは22,600ppmと高濃度ながら安全性が高いため,米国歯科医師会(ADA),米国小児歯科学会はもちろん,米国小児科学会も推奨している1)ように成人のみならず乳児・小児に対するう蝕抑制目的にも利用されています.米国と英国では日本と同様に知覚過敏抑制剤としての認可であり,う蝕予防のための認可は受けていませんが高齢者などリスクの高い成人にフッ化物バーニッシュの使用が推奨されています2).また,カナダ,そしてスウェーデンをはじめとするEU諸国ではう蝕予防用途で認可が得られているようです.米国や豪州など水道水添加が行われている国ではカリエスリスクが高い人だけに推奨されているという記事も見かけました.このあたりは国によっても事情が異なるようです.日本におけるフッ化物バーニッシュの適応外使用については後述したいと思います.

(3)作用機序

 高濃度フッ化物を歯面に塗布した場合,フッ化カルシウムが生成され,歯磨剤など低濃度フッ化物を歯面に塗布した場合はフルオロアパタイトが生成されることはご存知だと思います.高濃度フッ化物の5%NaFバーニッシュで処理することにより,象牙質モデルブロックに酸抵抗性が得られる3)4)ことが基礎研究で明らかになっています。97%の無機質(ハイドロキシアパタイト)を含むエナメル質と比較して70%と無機質が少ない象牙質であっても,象牙質の無機質と反応しCaF2が生成されると考えられます.高濃度フッ化物により生成されたCaF2は,歯面からFイオンを徐放し持続的にFイオンを供給すると考えられています.

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フッ化物バーニッシュや歯面塗布剤などの高濃度フッ化物の場合

 Ca10(PO4)6(OH)2+2F → 10CaF2+6P4+2OH

フッ化物歯磨剤など低濃度フッ化物の場合

 Ca10(PO4)6(OH)2+2F → Ca10(PO4)6F2+2OH

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 それでは,どのくらいの深さまで効果が見られるのでしょうか.5%NaF Duraphatを対象としたinvitro論文では1回塗布12時間でエナメル質表層70μm まで認められたと報告5)されており,Fバーニッシュを対象とした研究でも1回塗布12時間で象牙質70μmまで認められたと報告6)されています.実験法や製剤が異なること,エナメル質と象牙質の違いがあることを考慮に入れたとしても,象牙質でも十分フッ化物が取り込まれるであろうことが分かります.このことから,フッ化物バーニッシュは初期エナメル質う蝕に加え,初期根面う蝕に対しても有効だと考えられます.超高齢化を迎え,根面う蝕に対して対応が求められているわが国においてもフッ化物バーニッシュの活用は有用であると考えられます.

(4)他剤形との比較

 日本の歯科医院で塗布される場合,9,000ppmのフッ化物ゲルを綿球で塗布する綿球塗布法が一般的なようです.歯科先進国スウェーデンでは,現在はフッ化物バーニッシュを塗布することが多いようです.

 フッ化物バーニッシュは綿球塗布法などで用いられる9,000ppmと比較して22,600ppmと約2.5倍ほど高濃度であり,歯面で硬化しフッ素イオンを持続的に徐放することにより処置(塗布)間隔を伸ばすことが出来ます.報告では,フッ化物バーニッシュは基本6か月に1回塗布,カリエスリスクが高い場合などは3か月に1回塗布する7)ことが多いようです.一方,フッ化物バーニッシュ塗布後に飲食を控える時間が必要だったり,コストの面では綿球塗布法に分があるように思います.

 フッ化物配合歯磨剤やフッ化物洗口剤は低濃度であり,特にフッ化物配合歯磨剤では唾液によって速やかに効果が減弱すると考えられています.一方,フッ化物バーニッシュは歯面に付着し硬化することによって長時間フッ化物を徐放することが可能です.クリンプロホワイトバーニッシュFは4時間,歯面に付着するようにすれば,24時間フッ素に加えリン・カルシウムを徐放する4)としています.これはどちらが良いとかそういう話ではなく,剤形による特性の違いです.患者さんのリスクに応じて,基本的には組み合わせて用いることが肝要だと考えられます.

 

2.適応外使用について

 現在,日本で販売されている「Fバーニッシュ」「クリンプロホワイトバーニッシュF」「エナメラスト」は知覚過敏抑制剤としての適応しか有しておらず,う蝕予防(抑制)剤として適応を有していません.これは調べた限りだと米国,英国,豪州でも,う蝕予防(抑制)剤としての認可は受けていません.このあたりの認識・事情・わが国での対応について少し触れておきたいと思います.

 まず,これらのフッ化物バーニッシュは,もともと硝酸銀に変わる知覚過敏抑制剤として開発・臨床応用された経緯8)9)があり,日本でも1970年代に知覚過敏抑制剤として試作されていました3).世界的にみてもフッ化物バーニッシュは知覚過敏抑制剤として開発され,う蝕予防(抑制)剤として開発されたというわけではないようです.

 適応外に使用した場合は原則として自費診療扱いとなり,保険請求することができません.つまり,保険診療においてフッ化物バーニッシュを使用してフッ化物局所応用(F局)を算定することはできません.しかし「保険診療における医薬品の取扱いについて(昭和55 年9月3日付保発第 51号厚生省保険局長通知)」に「薬理作用に基づき処方された場合には、診療報酬明細書の医薬品の審査に当たり,学術的に正しく,また,全国統一的な対応が求められている」と記載10)されています.つまり適応外使用であっても学会などが正しく審査を請求することによって薬事承認・保険適応になることがあります.医科ではこのような診査事例が比較的よくあります.

 現状,メーカーは歯科医師などへ情報提供する際に「う蝕予防目的に使用してください」と謳うことができません.う蝕予防目的に使うことは歯科医師の判断・裁量であって,罰則等はないようです.ただ,大学病院等では申請が必要だったりします.開業医であっても適応外使用となるフッ化物バーニッシュをう蝕予防目的に使用する際は,患者さんに適切に説明を行い同意を得ておく必要があると考えています.フッ化物バーニッシュがう蝕予防に効果が得られることは多くの研究で明らかになっており,フッ化物がう蝕予防に有効なことは紛れもない事実ですので,歯科医師の裁量で使用して構いません.ただ,患者さんに説明して同意を得ておくことは必要だと考えています.

 

3.使用方法と安全性(幼児・小児への適応)

(1)使用量

 予防歯科用途で使用する場合,Duraphat®では以下の用量で使用することと明記されています.

乳歯列

~0.25ml(5.65mgF)

混合歯列

~0.40ml(9.04mgF)

永久歯列

~0.75ml(16.95mgF)

 安全性については後述しますが,適正な使用方法や,年齢に応じた適正量の使用が求められています7)11).クリンプロホワイトバーニッシュFの場合,1包が0.5mlですので,乳歯や混合歯列に全量使用することは安全性に問題はないものの過量使用になってしまうと考えられます.クリンプロホワイトバーニッシュFには使用量のガイドとなるイラストと「1回分のバーニッシュを全て(イラストの)円の中に出して,内側の円でよく混ぜます.容量の絵を参考に適量を使用してください」との説明文(英文)が外装袋に書かれています.

fig.2 クリンプロホワイトバーニッシュFの外装袋

 乳歯列に使用する際は,1包の半分程度を目安にして有害事象のリスクを低減することができます.ただ,日本での販売はあくまで知覚過敏抑制剤として認可されているものであるため,乳児に対する細かいデータはないようです.患者さんに応じた適量使用を心がけたいですね.

(2)アレルギー

 フッ化物バーニッシュのアレルギーリスクはわずか2)だと考えられていますが,ロジンアレルギー,潰瘍性歯肉炎,口内炎,気管支喘息などを有する場合は塗布を控えるよう添付文章に記載されています7).また,溶媒としてエタノールが含まれている(フッ化物ではなくロジンの溶媒)ため,アルコールに敏感な場合は避けたほうがよいと考えられています.

(3)安全性について

 一般的に,フッ化物バーニッシュは綿球塗布法で使用される9,000ppmのフッ化物製剤よりも安全性が高いと言われます.なぜ安全と言えるのか,フッ化物バーニッシュ塗布後の薬物動態に関する研究と,急性中毒量の計算を元に考察してみたいと思います.

①薬物動態

 フッ化物バーニッシュは,高濃度フッ化物(22,600ppm)を配合しているにも関わらず幼児・小児ともに薬物動態上,安全だと考えられています1)12). 安全だとする理由は,そもそも1回の使用量が最大0.5mlと少ないことに加え,ロジンによって硬化し消化管でほとんど吸収されないからだと考えられています13).乳児(生後12か月~15か月)を対象とした研究でも尿中のフッ化物量から推定した血漿中薬物濃度は基準を超えなかったことが確認されています14).また,同様の試験で3~4歳児での安全性も確認されています15),FDAの報告によると2010年から2020年の10年間,フッ化物バーニッシュの有害事象は65件,いずれも広く使用されている割に有害事象が少なく,死亡例も報告がなく安全に使用できる製品であると報告16)されています.

②急性中毒

 何らかの医療処置が必要とされるフッ素急性中毒量(5mg/5kg)を下の表に示します(便宜上1mlを1gとしています.(計算間違いがありましたらご指摘ください)).5%バーニッシュ剤は22,600ppmと高濃度であるものの,使用量が1包(1回分)で0.5ml(乳歯列の場合は0.25ml)と少なく,2%NaFの塗布用ジェルと比較してそれほど変わらない結果になっています.また,過量に摂取することが問題になりますが,フッ化物バーニッシュは歯科医師・歯科衛生士(国によってはトレーニングを受けたデンタルナース)により塗布され,さらに新しい世代のフッ化物バーニッシュは1回0.5mlが1包になっていることで誤飲など現実的に中毒になるような過量摂取は起こらないと考えられます.

Table.1 15kg(4歳児)の場合の急性中毒量(Whitford 5mg/kg)

 

4.フッ化物バーニッシュのう蝕抑制効果

 フッ化物バーニッシュのう蝕抑制効果はどのくらいなのでしょうか?フッ化物バーニッシュにはシステマティックレビューが存在しています.22試験,12,455人(9,595人)を対象とした2013年のコクランレビューでは永久歯に対する13 試験についてのDMFS 予防率は 43%, 乳歯に対する10試験についてのdmfs予防率は37%と報告17)されています.また,比較的新しい(2020年)英国シェフィールド大学の16の研究を基にしたシステマティックレビューでも31.13%のう蝕抑制効果を有していると結論づけられています18)

 下の表でう蝕抑制効果について他剤形と比較してみました.フッ化物バーニッシュのう蝕抑制効果は2013年のコクランレビュー17),その他は手元にあった新予防歯科学第4版医歯薬出版19)を参照して表にしてあります.このう蝕抑制率というのは非常にざっくりと算出されておりまして,あまり参考になりませんが,フッ化物バーニッシュが他のフッ化物製剤と比較しても遜色のない数値が出ていることが分かると思います.

Table.2 各剤形,応用法によるう蝕抑制率

5.費用対効果Cost & Benefitへの疑問

 文献にフッ化物バーニッシュの効果がなかったとするものや,費用対効果がよくないとする文献がみられました.このあたりの事情について論文をご紹介して,少し考察してみたいと思います.

 1~4歳を対象としてフッ化物バーニッシュを年2回×2年間塗布しても,う蝕の発生率は減少しなかった20)とする論文,2~5歳を対象としてフッ化物バーニッシュ(7,000ppm)を歯磨剤(1,000ppm)利用環境下で2年間塗布しても有意なう蝕予防効果を示さなかったとする論文21).フッ化物配合歯磨剤(1,000 ppm以上)による毎日の歯磨きの補助として塗布された場合,小児(8歳未満)に対するう蝕予防の有意な有益性はないとする論文22).1~3歳の小児に対し年2回のフッ化物バーニッシュ塗布が,う蝕予防やう蝕の進行抑制に寄与しなかったとするスウェーデンの論文23)が見られました.さらに,フッ化物バーニッシュが統計学的に有効とは言えず費用対効果の分析が必要であるとしたシステマティックレビュー24)も存在しています.

 また,スウェーデン・ストックホルムで行われた3,403 人の子どもを対象とした年 2 回のフッ化物バーニッシュ塗布を追加したう蝕予防プログラム「Stop Caries Stockholm」(SCS)では,口腔内細菌叢にはほとんど影響を与えず,う蝕の発生を有意に減少させることはなかった.費用対効果は優れていると言えなかったと報告されています25).日本に近い台湾の研究でもフッ化物バーニッシュの集団塗布に懐疑的な意見が見られています26)

 公衆衛生的には歯磨剤やフロリデーションのほうが費用対効果が良好であるという結果になるのだと思われます.このような複数の研究データから,フッ化物バーニッシュは,より多くの人を対象とするポピュレーションアプローチへの利用よりも,よりリスクの高い人,う蝕が存在する人を対象とするハイリスクアプローチによるほうが有効でコスト&ベネフィットが良好になるのではないか考えました.

 この費用対効果について,日本では無視されてしまうことが多いのですが・・・予防歯科を考える時,先進国のクリニックに来院される患者さんのう蝕予防だけではなく,世界のどこかの貧しい人まで老若男女問わずう蝕から救うことが出来るかは非常に大切なことだと考えています.

 

6.まとめ・臨床応用のコツ

  勤務先ではフッ化物歯磨剤,フッ化物洗口剤に加え,フッ化物バーニッシュを有効に活用しています.あんまり使ったことがないぞという歯科医や歯科衛生士さん向けに臨床応用のコツを書いてみようと思います.

(1)使用が推奨される症例

 前述のとおり費用対効果を考慮すると,ポピュレーションアプローチには不向きのような気がします.ただ,無効というよりは,歯磨剤や洗口剤,フロリデーション等の優先順位が高いということを意味しているのだと思います.

 米国歯科医師会(ADA)では,6歳未満の小児には2.26パーセントのフッ化物バーニッシュが推奨され,6歳以上の患者には、2.26%のフッ化物バーニッシュ、1.23%のAPFゲル、または家庭用0.05%のフッ化物ゲルまたはペースト、0.09%のフッ化物洗口剤が推奨されています27)

 6歳未満だと洗口剤は使いにくいですから,バーニッシュを推奨しているのだと思いますが,このあたりは米国のフロリデーションの影響もあるかもしれません.どんなう蝕に有効なのかということですが,フッ化物バーニッシュは活動的なう蝕よりも健全な歯に効果がある20)というような報告も見られました.ただ,これも無効ということではありません.ざっくりとまとめると,使用が推奨される場面は「う蝕リスクが高い」「初期う蝕(脱灰等)の所見がみられる」「知覚過敏症状がある」というところでしょうか.もちろん,フッ化物配合歯磨剤,洗口剤などと併用するべきと考えています.

 実際に使用してみるとわかるのですが,歯面をしっかり乾燥させて塗布するとバーニッシュの硬化が早く脱離がありません.塗布後も出来るだけ乾燥に近い状態が求められると思います.また,リスク部位である小窩裂溝や隣接面には,よく入りこむように何回も擦るように塗布したほうがよいと考えています.このような操作を考慮すると,幼児に使用するよりも,ある程度指示動作に従うことができる年齢の小児に対し使用するべきなのかなと考えます.

(2)費用対効果について

 実は,勤務先の地域の検診事業に参加していた数年前から,〇歳児検診時など公共施設で行われているフッ化物塗布(9,000ppm/綿球塗布法)について懐疑的でした.数年に1回(年に数回ではない),無影灯のない暗い口腔内にちょんちょんと塗布し,ガイドラインで定められた4分間の湿潤状態が守れないわけです.歯科衛生士などの人的資源(コスト)を投入して,得られる結果はどの程度なのだろうか・・・と.費用対効果もそうですが,疫学的にもこれは有効なのだろうか・・・と.この綿球塗布法によるポピュレーションアプローチに関してはなかなか難しそうだぞ.などと考えていました.フッ化物バーニッシュのポピュレーションアプローチについても厳しい研究が散見されました.日本で費用対効果を無視した運用がされることがないよう祈るばかりです.

(3)う蝕管理について

 現在の歯科健康保険制度ではSPTやP重防など歯肉炎や歯周炎に対するメインテナンスはカバー出来ていますが,う蝕についてのフォローはなく,フッ化物塗布は16歳未満のう蝕多発傾向者や65歳以上の根面う蝕,エナメル質う蝕に限られています.本来,「う蝕が多発しているから」「根面初期う蝕が発生しているから」「初期エナメル質う蝕が発生しているから」ではなく「う蝕が発生しないように」「根面初期う蝕が発生しないように」「初期エナメル質う蝕が発生しないように」フッ化物応用を実施するべきだと考えています.

 スウェーデンでは2000年頃まで通称「フッ素おばさん」が毎週,小学校にやってきて歯磨きを教えてくれたり,フッ化物集団洗口を実施していたという話を聞いたことがあります.歯科先進国スウェーデンでも,う蝕の減少・フッ化物入り歯磨剤の普及など時代背景の変化によりフッ化物集団洗口などの公衆衛生的応用からセルフケア・歯科医院での個人アプローチへ変わっています.う蝕=切削ではなく管理する時代です.フッ化物バーニッシュを予防歯科臨床に取り入れてみてはいかがでしょうか.

 

7.Q&A

Q フッ化物バーニッシュはどのくらい昔からあったものですか?

 フッ化物バーニッシュの一番古い文献は1940年代のものでした.日本で初めてフッ化物バーニッシュが発売されたのは1981年のFバーニッシュが最初です.

Q フッ化物バーニッシュ塗布後,他のフッ化物配合歯磨剤や洗口剤は使用できますか?

 塗布後24時間はフッ化物歯面塗布(9,000ppm)など他のフッ化物処置は行わないようにします7,8).歯磨剤や洗口剤は時間を開けて使用可能です.

Q 塗布後,出てきた唾液は飲み込んでも大丈夫ですか?吐き出すべきですか?

 飲み込んでも問題ありません1, 12-16).フッ化物バーニッシュの多くは歯に付着し,バーニッシュが唾液に溶け出してしまうことは考えにくいです.

Q アレルギーがある患者さんに使用した場合,どうなりますか?

 フッ化物バーニッシュのアレルギーはまれ2)ですが,アレルギーがある患者さんはフッ化物バーニッシュ塗布後,口腔粘膜の浮腫性腫脹を起こすことがあります.また,潰瘍や口内炎が報告されています,まれに気管支喘息の患者さんは喘息発作を起こすことがあると記載されています.消化管の過敏な患者さんは広範囲に塗布した後に胃のむかつきや嘔吐を引き起こすことがあります7)

Q なぜ義歯装着や飲食物の摂取,歯磨きを一定時間,控えなければならないのですか?

 フッ化物バーニッシュは綿球塗布法と異なり,歯面に硬化し付着することによって長時間の作用(フッ化物のチャージ)を可能とした製剤です.できるだけ硬化させ,歯面に付着させたいので,飲食物の摂取は避けるべきです.また,バーニッシュが硬化する前に義歯を装着したり,歯磨きをしてしまうと,バーニッシュが取れなくなってしまいます.

Q バーニッシュが硬化する前に歯ブラシを使用して固まってしまいました.

 完全に硬化する前に歯磨きしてしまうと,毛の間にバーニッシュが入って固まってしまいます.歯ブラシの毛先が固まってしまった場合はエタノールできれいになります7).石鹸等ではキレイになりません.

Q バーニッシュ塗布前に歯面清掃はするべきですか?

 フッ化物応用の前の歯面清掃は基本的に不要と考えられています.清掃自体の効果はわかりませんが,システマティックレビューで対象になっている研究では,ペーストで歯面清掃をしてから塗布している研究が多いようです.バーニッシュの付着・硬化のために歯面の乾燥が有効であるため,できるだけ歯面清掃はしたほうがよい(少なくとも歯磨きはしたほうがよい)と思います.

Q 他にフッ化物バーニッシュはどんなものがありますか?

 個人的にMedicom Duraflor® 5% Sodium Fluoride Varnish(日本未発売),Premier® Enamel Pro® Varnish(日本未発売)の使用経験があります.現在,日本ではフッ化物バーニッシュはFバーニッシュを含め3剤ですが,今後も上記のような海外で販売されている製品が日本で販売される可能性があります.

Q フッ化ジアンミン銀との使い分けはどのようにするべきですか?

 もともと,硝酸銀の代替として開発された経緯があるようにフッ化ジアンミン銀とフッ化物バーニッシュの効果・効能は似ています.現在,根面う蝕にフッ化ジアンミン銀「サホライド液歯科用38%/48,400ppm」が推奨されているように,フッ化物バーニッシュも根面う蝕に有効と考えられます.サホライドはう蝕を黒化させますが,バーニッシュはう蝕を黒化させません.私は幼いころ,父に乳前歯にサホライドを塗布された経験がありまして,小さいころはそれが嫌だったことを覚えています.黒化して困る部位にはバーニッシュ塗布を検討するとよいと思います.

 

8.参考文献

1) Milgrom P, Taves DM, Kim AS, Watson GE, Horst JA. Pharmacokinetics of fluoride in toddlers after application of 5% sodium fluoride dental varnish. Pediatrics. 2014 Sep;134(3): e870-4.

2)イギリス政府デジタルサービス Guidance Chapter 9: Fluoride https://www.gov.uk/government/publications/delivering-better-oral-health-an-evidence-based-toolkit-for-prevention/chapter-9-fluoride (Retrieved on April 17, 2022)

3) 新海研志 象牙質におよぼすFluoride Varnishの影響について 口腔衛生学会誌1979, 29-2 P134-144

4) 3Mクリンプロ ホワイト バーニッシュ F https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/dental-jp/products/preventive/clinpro-white-varnish-f/ (Retrieved on April 17, 2022)

5) Koch G, Petersson LG. Fluoride content of enamel surface treated with a varnish containing sodium fluoride. Odontol Revy. 1972;23(4):437-46.

6) 可児 瑞夫ら Fluoride Varnishのエナメル質におよぼす影響について-in vitro口腔衛生学会雑誌1987, 37-3 P342-351

7) Colgate Duraphat® https://www.colgateprofessional.com.au/products/products-list/colgate-duraphat-varnish (Retrieved on April 17, 2022)

8) Lukomsky, E. H. “Fluorine Therapy for Exposed Dentin and Alveolar Atrophy’.” Journal of Dental Research 20.6 (1941): 649-659.

9)Hoyt, William H., and Basil G. Bibby. “Use of sodium fluoride for desensitizing dentin.” The Journal of the American Dental Association 30.17 (1943): 1372-1376.

10)厚生労働省 保険診療における医薬品の取扱いについて https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb0199&dataType=1&pageNo=1 (Retrieved on April 17, 2022)

11) Lockner F, Twetman S, Stecksén-Blicks C. Urinary fluoride excretion after application of fluoride varnish and use of fluoride toothpaste in young children. Int J Paediatr Dent. 2017 Nov;27(6):463-468.

12) Twetman S, Stecksén-Blicks C. Urinary Fluoride Excretion after a Single Application of Fluoride Varnish in Preschool Children. Oral Health Prev Dent. 2018;16(4):351-354.

13) Ekstrand J, Koch G, Petersson LG. Plasma fluoride concentration and urinary fluoride excretion in children following application of the fluoride-containing varnish Duraphat. Caries Res. 1980;14(4):185-9.

14)Milgrom P, Taves DM, Kim AS, Watson GE, Horst JA. Pharmacokinetics of fluoride in toddlers after application of 5% sodium fluoride dental varnish. Pediatrics. 2014 Sep;134(3):e870-4.

15)Lockner F, Twetman S, Stecksén-Blicks C. Urinary fluoride excretion after application of fluoride varnish and use of fluoride toothpaste in young children. Int J Paediatr Dent. 2017 Nov;27(6):463-468.

16) Mascarenhas AK. Is fluoride varnish safe? : Validating the safety of fluoride varnish. J Am Dent Assoc. 2021 May;152(5):364-368.

17)Marinho VC, Worthington HV, Walsh T, Clarkson JE. Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 11;(7):CD002279.

18)Timms L, Deery C. Fluoride varnish and dental caries in preschoolers: a systematic review and meta-analysis. Evid Based Dent. 2020 Mar;21(1):18-19.

19) 米満正美ら 新予防歯科学第4版 医歯薬出版

20) Oliveira BH, Salazar M, Carvalho DM, Falcão A, Campos K, Nadanovsky P. Biannual fluoride varnish applications and caries incidence in preschoolers: a 24-month follow-up randomized placebo-controlled clinical trial. Caries Res. 2014;48(3):228-36.

21) Agouropoulos A, Twetman S, Pandis N, Kavvadia K, Papagiannoulis L. Caries-preventive effectiveness of fluoride varnish as adjunct to oral health promotion and supervised tooth brushing in preschool children: a double-blind randomized controlled trial. J Dent. 2014 Oct;42(10):1277-83.

22) Yu L, Yu X, Li Y, Yang F, Hong J, Qin D, Song G, Hua F. The additional benefit of professional fluoride application for children as an adjunct to regular fluoride toothpaste: a systematic review and meta-analysis. Clin Oral Investig. 2021 Jun;25(6):3409-3419.

23) Anderson M, Dahllöf G, Soares FC, Grindefjord M. Impact of biannual treatment with fluoride varnish on tooth-surface-level caries progression in children aged 1-3 years. J Dent. 2017 Oct;65:83-88.

24)de Sousa FSO, Dos Santos APP, Nadanovsky P, Hujoel P, Cunha-Cruz J, de Oliveira BH. Fluoride Varnish and Dental Caries in Preschoolers: A Systematic Review and Meta-Analysis. Caries Res. 2019;53(5):502-513.

25) Anderson M, Davidson T, Dahllöf G, Grindefjord M. Economic evaluation of an expanded caries-preventive program targeting toddlers in high-risk areas in Sweden. Acta Odontol Scand. 2019 May;77(4):303-309.

26) Lin PY, Wang J, Chuang TY, Chang YM, Chang HJ, Chi LY. Association between population-based fluoride varnish application services and dental caries experience among schoolchildren in Taiwan. J Formos Med Assoc. 2021 Aug 2: S0929-6646(21)00347-8.

27) Weyant RJ, Tracy SL, Anselmo TT, Beltrán-Aguilar ED, Donly KJ, Frese WA, Hujoel PP, Iafolla T, Kohn W, Kumar J, Levy SM, Tinanoff N, Wright JT, Zero D, Aravamudhan K, Frantsve-Hawley J, Meyer DM; American Dental Association Council on Scientific Affairs Expert Panel on Topical Fluoride Caries Preventive Agents. Topical fluoride for caries prevention: executive summary of the updated clinical recommendations and supporting systematic review. J Am Dent Assoc. 2013 Nov;144(11):1279-91.

 

9.おすすめ

 

一般の方向けの本.待合室に1冊置いておくのもよいかもしれません.

 

これはガイドラインとも言うべき本.1医院に1冊なくてはならない本です.

 

スウェーデンの歯科医学生・歯科衛生士学生が学ぶう蝕学の教科書の翻訳本です.

 

PHOTO :Malmo