【考察】口腔乾燥症/ドライマウスをどう診断するか

投稿者: | 2021年1月29日
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 う蝕予防に係る歯科医・歯科衛生士にとって口腔乾燥症/ドライマウスの診療、唾液分泌量の測定は避けて通れません。今回は私の臨床経験をもとに口腔乾燥症/ドライマウスについて少しだけ記載してみようと思います。

 

1.唾液分泌の仕組み

 唾液の働きは(1)歯や粘膜を保護する働き、(2)食塊形成や消化など食事に関する働き、(3)細菌など微生物に対する働きに大別されます。それぞれの解説は教科書に譲りますが、唾液には水、ムチン、アミラーゼ、リパーゼなど様々な成分が含まれています。
 唾液腺には顎下腺、耳下腺、舌下腺の三大唾液腺に加え、前舌線や口唇腺などの小唾液腺が知られています。基本的にはいずれも腺房細胞で原唾液(唾液の元になるもの)が産生され、導管を通り口腔内の唾液腺開口部から唾液が分泌されます。
 少し生理学的な面からもご説明を付け加えておきたいと思います。実は唾液腺は自律神経の二重支配を受けるというのが特徴で、歯科医師や歯科衛生士などの臨床家にとってもこれらを把握しておくことが必要です。自律神経系は交感神経と副交感神経の2種類に分けられます。交感神経を興奮させるとノルアドレナリンを分泌し唾液腺に作用すると唾液中の「タンパク質」の分泌が促進されます。一方、副交感神経を興奮させるとアセチルコリンを分泌し、唾液中の「水」の分泌が促進されます。よくある発表会や講演会など大勢の前で発表しなければならないような場面で緊張しているときに口が乾く・・・というのは、交感神経優位になっている状態で唾液中の水成分ではなくタンパク成分が増加しているため。ということになりますね。
 唾液の「水」と「タンパク質」の分泌機構・経路の細胞学的な知識に関しては専門的になってしまいますので本ブログでは割愛します。ただ、唾液腺刺激薬を処方する口腔外科医の方は知っておいて損はないかと思いますので機会があれば成書をご参照ください。

2.唾液分泌量の測定

 口腔乾燥症治療の第一歩、刺激唾液分泌量を測定する方法と安静時唾液分泌量を測定する方法をご紹介します。一般的に刺激唾液の場合は耳下腺から多く分泌され、分泌速度が速くサラサラしています。一方、安静時唾液は顎下腺から多く分泌され、分泌速度が遅くネバネバしているとされています。

 (1)ガムテスト
 チューイングガムを10分間咀嚼させ、紙コップに全て吐出させ20mlのシリンジで吸い取り量を測定するか、20mlのメートルグラスに直接吐出させ量を測定します。味は無味でもミント味でも量は変わらないとするデータがあります(梅味はダメ)。
診断基準:10ml/10min.以下で唾液分泌量低下

 (2)サクソンテスト
 専用の7.5×7.5cm 2gのガーゼを用いて2分間噛みます。あらかじめガーゼの重量を測定しておき増加した重量を唾液量とする方法です。検査時間が短く、チューイングガムを咀嚼するのが困難な義歯装着患者にも有効です。ただ、汎用の所謂デンタルガーゼではないことに注意が必要です。
診断基準:2g/2min.以下で唾液分泌量低下

 (3)口腔水分計ムーカス® (参考)
 舌尖から1cmの舌背に200gの圧で測定器を当て、連続して3回測定しその中央値を数値を読みます。舌粘膜の水分量を静電容量として「湿潤度」を測定する方法です。
診断基準:27.0未満(単位なし)で湿潤度低下

 (4)安静時唾液測定 (参考)
 安静にした状態で、紙コップに唾液を全て吐出させ10mlのシリンジで吸い取り量を測定するか、10~20mlのメートルグラスに直接吐出させ量を測定します。「安静時唾液」を測定する方法です。
診断基準:1.0 ml/10min.以下で安静時唾液低下

 (5)唾液湿潤度検査紙 エルサリボ® (参考)
 眼科のシルマーテストの要領で、検査紙を舌の上に置いて「湿潤度」を測定する方法です。
診断基準:2mm/10min.以下で湿潤度低下

 「唾液分泌量」を測定する場合は(1)あるいは(2)の方法で行うのが一般的です。講演した際に「ガムテスト」と「サクソンテスト」はどちらがよいか?とリウマチ内科の先生から質問をいただきましたが、ガーゼを用意できるのであればサクソンテストがいいかもしれないが、データの正確性に変わりありませんと回答しました。

3.口腔乾燥症の原因

 なんで唾液が出ていないのか・・・口腔乾燥症の原因は実に様々です。生活習慣や既往などを丁寧に問診することが大切です。口腔乾燥症の原因となるものは以下の通りです。
 (1) 体液や電解質の異常
 (2) 内分泌の異常
 (3) 代謝障害
 (4) 自己免疫性疾患(シェーグレン症候群、IgG関連疾患)
 (5) ストレス
 (6) 喫煙
 (7) 服用薬剤の副作用(降圧薬や抗アレルギー薬、抗うつ薬など)
 (8) 唾液腺が照射野に含まれる放射線治療
 (9) 鼻疾患などによる口呼吸
 (10) その他(脳腫瘍や神経系疾患など)

 経験的に非常に多いなと感じるのは(5)、(6)、(7)でしょうか。ただ、原因を追求していく際は「高齢だから」や「これが原因だろう」などと先入観を持たず、血液検査や画像検査なども含め客観的に診断することが大切になってきます。例えば、血液検査でSS-A/Bが陰性だからと言ってシェーグレン症候群を否定してはいけません。非定形もあり得るからです。

 口腔乾燥症は複雑で、口腔乾燥症診療を成功に導くのは非常に難しいことがわかっていただけたと思います。今回、開業歯科医・衛生士が対応しうる範囲で記載してみました。唾液分泌量測定試験で唾液分泌低下を認めたら、専門外来を有する診療施設にご紹介いただけるとよいのかなと思います。

Img:Malmo

 

 
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