【考察】国民皆歯科検診?スウェーデンの歯科定期検診率80~90%は本当なのか調べてみた.

投稿者: | 2023年2月4日
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 2022年6月8日,わが国では全ての国民に歯科検診を義務化する制度,いわゆる「国民皆歯科検診」が閣議決定されました1).日本での歯科定期検診率は低いとされ,日本歯科医師会が2022年に実施した調査によると,国民の半数以上が歯科医院で定期チェックを受けていないという結果2)になっています.

 一方,歯科先進国スウェーデンでの歯科定期検診率は80~90%の定期検診率などと報告 (多くのWebページでこのように記載されているのを見かけましたが,データ元が見つかりませんでした.ご存知の方はこちらからお知らせいただけますと幸いです) され比較の対象となっています.今回はスウェーデンの実際の歯科定期検診(受診)率について,スウェーデンの社会庁の統計データ3)とともに,スウェーデン在住の友人に聞いた歯科定期検診の実際についてもご紹介していきたいと思います.

 

1.「健診」と「検診」,用語の違いについて

「健診」はいわゆる健康診断の略で,人間ドックや職場の定期健康診断がこれにあたります.「検診」は乳がんなどのがん検診に代表されるように特定の疾病を発見することを目的に行われるもので,早期発見・早期治療につなげることを目的として行われます.歯周病やう蝕などの特定の疾病を発見することを目的に行われるものなので「歯科検診」が正しいことになります.

 

2.2021年のスウェーデンの歯科定期検診の受診率は52% !?

 スウェーデン社会庁(socialstyrelsen)発表の統計を読んでみると.毎年歯科治療を受ける24歳以上の成人はCovid-19の感染拡大を受け2020年は49%だったが2021年は52%弱だったと報告されています(ちなみにパンデミック前の2019年は56%).感染拡大が起こった2020年に最もよく受診した年齢層は65~69歳で64%だったが,2021年は75~79歳の年齢層が71%強と最も高かったと報告されています(ちなみにパンデミック前も最もよく受診した年齢層は75~79歳で84%の受診率).

 2020年に比べて一定の増加がみられるものの,2012年以降は歯科受診率が低下しているとも報告され,COVID-19パンデミックの影響は2021年になっても歯科受診に影響を及ぼしている報告されています.

表:スウェーデンの歯科定期検診(受診率)の推移

 

 確かにスウェーデン国民の歯科に対する意識は日本より高いかもしれません,しかし,スウェーデンの人口の19.84%(2020年)を占める移民の方々は必ずしもそうではない可能性があります.スウェーデンの社会庁が発表した公式の統計からすると,スウェーデンの歯科定期検診率80~90%というのは言い過ぎかなと思います.

 

3.スウェーデンの歯科定期検診の実際について

 スウェーデンでは,Personal number(日本のマイナンバーのような制度)により,定期検診の時期になると登録した歯科医院から「この日時に予約取得しましたから,受診してください」と通知がきます.WebもしくはTELで日程の変更が出来るものの,受診しないと300クローネ(約4,000円)が請求されることになります.さらに無視していると,例えば小児なのであれば虐待を疑われて通報されてしまうという仕組みになっています.

 確かに強制的に予約が取られているのであれば受診せざるを得ない気がします.ただ,同じことが日本で出来るかと言うと,なかなか難しいような気がします.

 

4.まとめ

 

(1)検診の実施方法について
 スウェーデンと日本の歯科検診の大きな違いですが,スウェーデンとの大きな違いは登録してある(かかりつけ)歯科医院で検診を受けましょうというわけであって,日本のように保健センターや学校などで行われるような集団的な検診ではありません.正直,暗くて良く見えないような検診ではなく,歯科ユニットの無影灯の他,透過光診断器などが揃っている歯科医院で実施したほうが精度の高い検診が実現可能なように思います.

(2)どうやって皆歯科検診を実現するか
 現在,日本の歯科検診は1歳6か月,3歳の乳幼児健診,保育園・幼稚園や学校保健安全法に基づく学校検診が義務になっています.つまり現在は高等学校まで義務になっているのですが,これに社会人も義務化し,「国民皆歯科検診」としようというわけです.

 現在,社会人は法律上(労働安全衛生規則48条),一定(労働安全衛生法22条3項)の有害な業務(塩酸,硝酸,硫酸,亜硫酸,フッ化水素,黄りん,その他歯又はその支持組織に有害な物のガス,蒸気又は粉じんを発散する場所における業務)に従事する者に対しては義務になっているものの,いわゆる会社で受ける労働安全衛生法に基づく一般健康診断に歯科検診は含まれていません.

 ある程度強制力をもって制度化するのであれば労働安全衛生法43条・44条に基づく健康診断に歯科健診を加えると実現性が高いのかなと思いますが,これだと大学生や主婦の方が漏れてしまい「国民皆」歯科検診にはならなそうです.あとは特定がん検診のように地域で案内する形にするか.一般の医科クリニックや病院で検診を受けた後,別途,歯科クリニックに受診するというのもなかなか面倒で敬遠されてしまいそうです.

 

5.参考文献

1)経済財政運営と改革の基本方針2022 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え,持続可能な経済を実現~
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

2)公益社団法人 日本歯科医師会「半数以上が歯科医院で定期チェックを受けていない」2022年10月20日
https://www.jda.or.jp/jda/release/cimg/2022/DentalMedicalAwarenessSurvey_R4.pdf

3)スウェーデン社会庁Webページ「Statistik om tandhälsa」
https://www.socialstyrelsen.se/statistik-och-data/statistik/alla-statistikamnen/tandhalsa/

 

 

6.おすすめ

 

セルローススポンジクロス,スウェーデン製,食器の拭きあげや洗車後の拭きあげに.

 

内容は少し古いですが,社会問題の解決に教育がいかに大切かと気づかされます.

 

日本は「人を育てる」教育になっていないように感じています.国籍や性別や年齢で差別される日本に嫌気がさします.