【エビデンス】患者さんに予防歯科の行動変容を起こさせる方法  ― う蝕予防学における行動変容理論・動機づけ面接(Motivational Interviewing/MI) ―

投稿者: | 2023年1月30日
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 いつまでたってもプラークコントロールが向上しない,フッ化物応用をしてくれない,酸や糖の制限などに協力的ではないなど日々の予防歯科臨床の中で歯科医療者の悩みは尽きません.これらを解決してくれる方法として数々のエビデンスを持ち,禁煙指導をはじめ数多くの行動変容が求められる場面で活用されてきたのが「動機づけ面接(Motivational Interviewing/MI)」です.今回はその他行動変容に関連する事柄にも触れながら動機付け面接によるう蝕予防にどのようなエビデンスが存在するのか,そしてどのように臨床で実践するかについて考察してみようと思います.

 

1.動機付け面接 (Motivational Interviewing/MI)とは何か

 動機づけ面接とは,米国ニューメキシコ大学臨床心理学名誉教授ウィリアム・R・ミラー(William Richard Miller 1947-)が1983年に発表した論文1)が元になったカウンセリングアプローチ法です.アルコール依存患者に対する面接法で,良い結果が得られた患者に対し行われた面接法を解析することによって開発されました.従来の医療者が指導・指示するという形ではなく,アルコール依存症の患者がどうしてそれに取り組まなければならないのか,患者自身の内面の矛盾や葛藤,希望にアプローチをすることによって成功に導くという方法です.

 カウンセラーとなる人はクライエントが抱える矛盾点に注目し,ガイド役となってクライエントが自身でその矛盾を解決できるようにサポートしていきます.つまり,カウンセラーは「こうするべきだ」などと主体的に行動を是正するものではなく,クライエントの考え方の変化や行動変容が自ら起こることをサポートしていくというスタンスです.動機付け面接では,クライエントの考え方や目標を個別に設定し,その目標に到達するための具体的な方法を一緒に考えていきます.その目標についてもクライエント自らが設定するものであってカウンセラーが設定するものではありません.

 例えばクライエントが「禁煙」することを目標に据え具体的な禁煙行動を実施していくと「少しくらいなら」や「明日から禁煙すれば」などという葛藤,「禁煙してもどうせいいことなんてない」など心の対立が起こります.そういった具体的な葛藤や心の対立に対しカウンセラーがクライエントの持つ感情を把握し,それらを一つ一つ解決することにより改善につなげていく.あくまでここで挙げたような葛藤や心の対立はクライエントから発生することであってカウンセラーはそれら内的な部分を引き出し,自己解決への援助を行っていくのです.

 

2.動機付け面接を理解・実践するために必要な予備知識・スキル

 Motivational Interviewing/MIを知るためにはいくつか臨床心理学的な基礎知識を身につけておいた方がよいと思います.クライエント中心療法,LEARNのアプローチ,行動変容ステージの5段階をご紹介していきます.

(1)クライエント中心療法
 動機づけ面接を理解するために,その元となったクライエント中心療法を知っておかないといけません.現代心理学(療法)第3勢力といわれ人間性心理学派の代表とされるクライエント中心療法は1940年代に米国の臨床心理学者であるカール・ロジャース(Carl Ransom Rogers1902-1987)が発表しました.米国ロチェスターの児童虐待防止協会でのカウンセリング経験から,それまでの「指示的」「指導的」なカウンセリングではなく,対象者を中心に据え,非指示的なカウンセリングを,患者(病人)対医療者という関係性ではなく顧客・依頼人という意味を持つ「クライエント」という表現で「クライエント中心療法」と呼ばれるカウンセリング法を発表しました2)

 クライエント中心療法に代表される人間性心理学には賛否あるものの,動機づけ面接は,本療法の考え方を踏襲しており動機づけ面接に大きな影響を与えたことに間違いありません.今回は動機づけ面接がテーマですので,クライエント中心療法について深堀しませんが,興味のある方はぜひ下の書籍を読んでみるとよいと思います.

 

 

 

 

(2)LEARNのアプローチ

 動機づけ面接を実践するために,Elois Ann Berlinらによって発表されたLEARNのアプローチ3)も知っておく必要があります.

L Listen(傾聴)
:クライエントの意見を引き出し,傾聴します.言い返したりしてはいけません.「どう考えていますか?」とかですね
E Explain(説明)
:少しずつ医学的な見解,疾病の内容等を説明します.例えば,「一般的にはこのように考えられています」とか.
A Acknowledge(相違の明確化)
:クライエントとカウンセラーの意見の相違点等を明らかにします.
R Recommend(提案)
:クライエントにあった提案をしてみます.「歯磨き剤にフッ化物が入っているものを選んでみましょう」とか.
N Negotiate(交渉)
:クライエントが行動に移せない場合など,どうサポートできるか(妥協点など)を探ります.

 頭文字でLEARNです.LEARNで学びましょうというわけですかね.カウンセラーとしてどういうスタンスでサポートするべきかが具体的に挙げられていますよね.エビデンスを武器に「あなたの体にこんなことが起こってしまう可能性があります」など体への悪影響とかで脅してはいけないわけです.

(3)行動変容理論(行動変容ステージの5段階)
 動機づけ面接とは異なりますが,行動変容を促すためにJames O. Prochaska (1942-)による変容ステージの5段階4)を理解することも必要です.この5段階は禁煙指導では必ずと言ってよいほど出てきますよね.人間の特性をそれぞれのステージに分類し,このステージを行ったり来たりしながら目標達成に向かって行動を変容していきます.

「無関心期」助言に対し抵抗を示す:6か月以内に行動を変える気がない
 例:フッ化物洗口なんかなんでやらなくちゃいけないんだよ.そんな金があったら他のもの買うわ!
 →全然辞める気がない人に無理にアプローチしない.興味をもってもらう程度

「関心期」両価性(アンビバレンス)を持つ:6か月以内に行動を変える気がある
 例:1日1回の洗口剤でむし歯を防げるのかぁ~でもわざわざうがいするのが面倒だよなぁ.
 →う蝕予防に関心がありますか?と聞く.LEARNのアプローチのListen(傾聴)

「準備期」決心する,具体的な対策を考える:1か月以内に行動を変える気がある
 例:フッ化物配合歯磨剤買ってみようかな.

「実行期」実行のために努力する:行動を変えて6か月以内
 例:1日1回,フッ化物洗口剤を使用する.

「維持期」効果を感じ,自律し継続する:行動を変えて6か月以上
 例:フッ化物洗口剤を続けられている.そういえばむし歯が出来なくなったなぁ.このまま続けてみよう.
 →6か月続けられているのであれば,メインテナンス時にほめる程度でよい.

 

 

3.う蝕予防におけるセルフケアの問題点

 スカンジナビアンアプローチによる歯周病学,う蝕予防学を学んでいくと,他の方法と比較してセルフケアの重要性が高いことが分かります.う蝕予防学におけるセルフケアについて,動機づけ面接に活用できるように問題点をリストアップしたいと思います.

①そもそも口腔清掃に積極的ではない.
 歯を磨く習慣がない,汚れていても気にならない,う窩があっても気にならない,歯磨きやフロスが面倒くさいと感じている

②セルフケアのフッ化物(歯磨剤・洗口剤)を使用してくれない.
 フッ化物の安全性を懸念している,フッ化物についてよく知らない,好みの味の歯磨剤を使用している,フッ化物洗口剤は面倒くさい

③メインテナンスや定期検診に応じてくれない.
 痛いなど症状のあるときだけ受診すればよいと考えている,歯科医院の音やにおい,痛みなどが嫌で行きたくない.

どうでしょうか,大きく分けて3つほど挙げてみました.患者さんがう蝕予防に抵抗を示すときにこのようなことを考えている患者さんが多いのではないでしょうか?もちろん細かく見ていけばその他にもあるかもしれませんが,患者さんが何に抵抗を示しているのか,何が行動変容の壁になっているのかを把握することはとても大切です.

それでは,こちらを踏まえて4,5で動機づけ面接を実践してみましょう!

 

4.動機づけ面接に取り組むための4原則

 動機づけ面接には実行するにあたってポイントとなる4つの原則があります.①共感を表現する,②矛盾を拡げる,③抵抗を手玉に取る,④自己効力感を支持する.です.それぞれ例を挙げ,う蝕予防学にどう生かすかをみていきたいと思います.

 (1)共感を表現する 
クライエントを正確に理解し,「私(カウンセラー)はあなた(クライエント)を十分理解している」ということを表現します.具体的にはクライエントの気持ちや感情,考え方などを言葉にして間違っていないか問いかけるなどが挙げられます.大切なのはカウンセラーがクライエントに対する「同情」を言葉にすることではないことです.クライエントに対し「わたしはあなたの味方です」と思わせることがとても大切だと思います.

例:「子供の頃からむし歯を削って治してを繰り返していたのですね.それを嫌だな,歯科医院は嫌なところだと思ってしまったのですね」
「私も昔からむし歯になってしまった経験があるので,どうしたら予防できるかを常に考えているのですよ」

 (2)矛盾を拡大する
 クライエントがこうなりたいと考えているにもかかわらず相対する行動をとってしまっていることを示します.そして,それを認識させます.相対する行動を責めてしまうのとは違うので注意が必要です.人間は自分の行動に矛盾(認知的不協和)を自覚すると正したくなる心理学的な傾向を持っています.行動を是正するのではなく,自覚させるだけで良い方向へ修正されます.

例:「本当はむし歯になりたくないと思っているのに,フッ素が面倒くさいんですね?」
「歳をとって入れ歯になりたくないと思っているのに,歯ブラシやフロスを使用していないのですね?」

 (3)抵抗を手玉に取る
 日常のTBIではしばしば「面倒くさくて」や「お金がかかるから」などの抵抗にあいます.カウンセラーは,クライエントからのそのような抵抗をうまくかわしながら,本人にとっての利益などよい行動がとれるようにサポートしていきます.「一度やってみたけれど,ダメだった」など思わぬ抵抗にも怯むことなくサラっと交わして「継続できるようにお手伝いしますね」と声を掛けてみるのはいかがでしょうか.

例:「フロスは確かに面倒くさいですよね・・・完璧にやろうとせずに週に1回から始めてみませんか?」
「フッ化物洗口剤を購入する時にお金は必要ですが,長期的に見たときに安かったと思えますよ」

 (4)自己効力感(Self-efficacy)をサポートする
クライエントが「自分は出来る」と思えるようにサポートします.最初から大きなゴール(目標設定)をするのではなく,専門家として小さなゴール設定をしてあげることによって「それなら出来るかも」と思わせるのがポイントです.そしてそのゴールに到達した際,カウンセラーは成功体験を振り返り,どうして実現できたかを分析して伝えてあげることが大切です.なによりも「自分自身で出来た」という認識をクライエントにさせることが大切です.

例:「タバコはやめられたじゃないですか」「以前,少しだけジュースやめられた時期があったじゃないですか」(過去の成功体験)
「奥さんもフッ化物洗口剤を使ってう蝕予防できているみたいですね」(代理体験)
  「几帳面な〇〇さんなら絶対できますよ!」(言語的説得)
  「〇〇さんのお口にむし歯できなくなりますよ」(生理的高揚)

 上記に加え「言い争いを避ける」を加えるものも見られました5).矛盾を感じるとクライエントもそうですが,カウンセラーも専門家としてその行動を非難したり説得するなどして是正したくなります(正したい反射).動機づけ面接ではそれを禁じています.あくまでクライエント本人が解決の糸口を見つけることをサポートします.

 例(悪い例):「どうしてエビデンスがあるのにフッ素洗口をしないのですか?」「1日1回でいいのに,なぜ出来ないのですか?」

 

5.動機付け面接の4原則を進行する為の戦略「OARS」と「DARN-CAT」

 上記4原則を進行していくための戦略として頭文字をとったOARSが示されています.
OARSを的確に使いながら進めていくと,クライエントが「自己動機づけ発言(チェンジトーク/ DARN-CAT)」が引き出されるとされています.
これは,クライエント自身による意思・意欲の言葉で,行動変容に繋がっていく重要なものです.最初に伝えた通り,クライエントが自ら答えを導き出すことが重要なため,そのきっかけとなるこの「自己動機づけ発現」をいかに引き出すかが重要とされています.

(1)OARSの4つの因子
O:OpenQuestion/開かれた質問
YES(はい)/NO(いいえ)で答えられてしまう質問ではなく,クライエントの考えを引き出すような問いかけをします.
「どうですか?何か変わったことがありましたか?」
「ご自身の変化で感じていることは何ですか?」
A:Affirm/容認・是認
 「1日2回歯磨き出来ているんですね,すごい覚悟ですね」
「以前,禁煙に成功されたんですよね,今回もきっと出来ますよ.」
R:ReflectiveListening/聞き返し
 「フロスを使っているとのことですが,どのようにお使いですか?」「奥さんに言われたのですね?」
S:Summarize/要約
 「むし歯予防のためにフッ化物洗口をはじめられたのですね」
 「1日1回だった歯磨きを1日2回に増やして,口臭が減ったことを感じたのですね」

(2)自己動機づけ発言の7つ(DARN-CAT)
変化への準備期
D:Desire/願望
「むし歯になりたくない!」「甘いものやめたい気持ちも…」
A:Ability/能力
「1日1回ならフッ化物洗口できるかも」「やってみたことがある」
R:Reason/理由
「むし歯にならなければツライ治療を受けずに済む!」
N:Need/必要
「フッ化物応用を始めなくちゃ!」
→クライエントにこれらを引き出す・語らせる

実行への準備期
C:Commitment/決心・宣言
「はじめよう!」「砂糖はやめよう!」
A:Activation/活性化
「フッ化物洗口すればう蝕にならないのか!」
T:TakingSteps/段階を踏む
「1日1回のフッ化物洗口を始めました!」

 

6.動機づけ面接のう蝕予防に対する効果

 動機づけ面接のう蝕予防に対する効果は幼・小児,それらの親への効果が数多く報告されています.また,幼・小児と比較して数は多くないものの,成人への介入の成果も報告されています.う蝕予防を目的として実際にどのような介入が行われ,どのような結果が得られているのかを見ていきたいと思います.論文検索にあたってはPubMed,Google Scholarを用いています.システマティックレビューも数多く存在していました.ざっくりとご紹介できればと思います.

(1)若い世代への応用は高い効果が示されている
 子を持つ親への有効性を示す論文が多く見つけることが出来ました6-12).子を持つ親への有効性だけではなく,青年期の間食指導,歯磨き指導にも効果的13)とする論文も見つけることが出来ました.低所得層の小児のう蝕発生率を抑制した14)というような報告も見つけることが出来ました.
動機づけ面接の効果は高齢者への効果を示す論文が多くみられたため,う蝕予防にも効果がないわけではないと思いますが,う蝕予防に関しては若い世代へのアプローチに有効性が示されているという印象でした.動機付け面接を小児へ応用することで,う蝕の発生が抑制された11)12)との報告も見つけることが出来ました.

(2)有効性や効果について懐疑的な論文について
 効果について従来の方法と同等,あるいは動機づけ面接法に懐疑的なシステマティックレビューも存在しています15-19).このような心理学的介入による研究は長くかかりますし,様々なバイアスが関与してきます.ある程度システマティックレビューであれば,信頼性が高くなりますがシステマティックレビューであってもこのバイアスをクリアすることはなかなか困難なのかなと思います.有効性について議論するのではなく,一つのアプローチ手法として取り組むという姿勢が必要なのかもなぁと考えました.

 

 

7.まとめ ~行動変容のための知識~

 行動変容や動機づけ面接などについて調べてみた自分なりのまとめです.

(1)タバコの存在が無ければ人間はタバコを吸わない.
 19世紀マルクスが唱えた唯物史観には「物質的生活の生産様式が,社会的・政治的・精神的な生活過程一般を条件づける.人間の意識が彼らの存在を規定するのではなくて,逆に,彼らの社会的存在が彼らの意識を規定するのである.」とあります.簡単に言ってしまうと,人間の意識がコントロールしているのではなく,物質により人間の意識がコントロールされているのだということです.
 少し乱暴なようですが,例えばこれを禁煙に置き換えてみると,「人間の意識が禁煙を難しくさせているのではなく,タバコという存在によって人間の意識が規定されてしまっている」と考えられることもできます.確かにジュースがなければ人間は手を伸ばすことができませんし,逆にフッ化物洗口剤が手元になければ意識して使おうとはならないわけです.具体的な対策としてはジュースを近くに置かず,フッ化物洗口剤を洗面所の目につくところに置いておく…そんなことで人間の意識が規定されるのだということになります.

(2)他人に指示されるのではなく,自分の中から矛盾や答えを導き出す.
 2012年,タイでこんなキャンペーンが行われたそうです.喫煙者に対し「火を貸してください」と.財団の職員や医療関係者がいうのではなく,普通の「子ども」に言わせた.自分のポケットからタバコを1本取り出しライターの火をせがむ子供に喫煙者はびっくりして「タバコを吸ってはダメだ」「肺がんになるよ」「手術が怖くないのか」と問います.はっとした大人に,子供は健康促進財団のホットラインが書かれた紙を手渡す・・・というキャンペーン.これはとても効果があったらしくホットラインへの電話は60%以上増加したとのことです20)
大切なのは,繰り返し説得するよりも自らの気づき,そして自ら認知的不協和を認識させ是正への行動変容につなげていくことです.

(3)人々に長期間の行動変容を促す3つのポイント
 ペンシルバニア大学ウォートン校のJonah Berger教授がハーバードビジネスレビュー誌に寄稿した「How to Persuade People to Change Their Behavior」21)では,人々に長期間の行動変容をどう促すかについて3つのポイントをあげて説明しています.
①ギャップに光を当てる
 「人間は一貫性のある行動を取ろうとする習慣があり,矛盾のない態度と行動を実践することを好む.その矛盾を指摘すれば本人は,それを自ら解消しようとする」歯を磨かない,フロスを使用してくれない患者さんに「あなたのご家族(高齢の親や子供)にむし歯になって欲しいと望みますか?」「フロスを使って欲しいと思いませんか?」と尋ねてみる.問いに対して「むし歯になって欲しいと望みません」「フロスを使って欲しい」と答えたのであれば,本人の行動と言動にギャップが生じていることになります.その矛盾を指摘してあげれば患者自ら行動を是正するようになります.
②質問を投げかける
 「主体性を奪われているように感じさせないための方法は,問い掛けの形でメッセージを届けること」
 「フッ化物を使用しないとむし歯になります」「歯を磨かないと歯周病が悪化します」こうした強い言葉を用いると,多くの患者は拒否反応を示します.同じメッセージを質問の形で言い換えればよく「フッ化物を使用しないと,どうなると思いますか?」や「歯を磨かないとあなたの歯周病はどうなると思いますか?」と尋ねてみます.この問いに対し理想的な答えを答えてくれれば,フッ化物がう蝕予防に有効であると認めることになり,歯を磨かないことによって歯周病が悪化することを認めた形になります.
③多くを求めすぎない
 「大きな要求をしても,自分たちがいま取っている行動との落差があまりに大きいため,その要求が心理学で言うところの「拒絶の領域」にはまり込み,拒絶されてしまう」1日1回,5分間くらいしか磨かない患者に対し「1日3回,15分間かけて」と指導すると拒絶され「そんなの無理だよ」と言われてしまいます.まずは「1日1回,10分間かけて」と提案してみます.それがクリアされたら「1日2回,10分間かけて」と要求を増やしてみます.それがクリアされたら「1日2回,15分かけて」と要求を増やしてみる・・・というように細分化し,少しずつ少しずつ行動変容に繋げていきます.

(4)動機づけ面接法を調べてみて
・専門家は間違っていることは正したくなってしまう生き物.でも,動機づけ面接法ではそれはダメ.(Righting reflex/正したい反射)
・どうして変わらないんですか?と聞いてしまうと「変わら(れ)ない理由」を考えてしまう.どうして変わる必要があるのかを考えさせる.
・クライエントがそれを望んでいるか,準備が出来ているか,出来ると思っているかは大切.
・「教育」,「説得」,「議論」,「勧告」を捨てる.「一緒に」という姿勢が必要
・主体は本人にある.答えも本人の中にある.
・権威的なのはよくない,エビデンスを持ち出すのも不可(エビデンスを持ち出さない).
・共感は大切22)
・面接時,カードを用いて対象者が大切にしている価値観を確認するというような方法5)もよい方法だなと思いました.

 

誤訳などありましたらこちらからお知らせいただけますと幸いです.また,ご意見・ご感想もお寄せいただけると嬉しいです.

 

8.Q&A

Q1 動機付け面接に取り組む際に必要な物や費用はありますか?
A 特に必要ありません.

Q2う蝕予防の他にどんな問題を持つクライエント効果が認められていますか?
A アルコール依存症,薬物依存症,ギャンブル,喫煙,肥満・ウェイトコントロール,高血圧,コレステロール値の改善,糖尿病の血糖コントロールなどでその有効性が報告されています.

Q3 禁煙に対する効果はどのくらいみられているのですか?
A 従来の禁煙の害や効用に関するアドバイスに比べ,動機づけ面接は5.2倍,1年禁煙率が高かった23)とするRCTがあります.他にも多くのポジティブな結果が記録されています.

 

9.参考文献

1)Miller, W. R. (1983). Motivational interviewing with problem drinkers. Behavioural Psychotherapy, 11(2), 147–172.

2)「カウンセリングと心理療法:実践のための新しい概念」岩崎学術出版社

3) Berlin EA, Fowkes WC Jr. A teaching framework for cross-cultural health care. Application in family practice. West J Med. 1983 Dec;139(6):934-8.

4)Prochaska JO, DiClemente CC, Norcross JC. In search of how people change. Applications to addictive behaviors. Am Psychol. 1992;47(9):1102-1114.

5)内閣府 ユースアドバイザー養成プログラム https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/h19-2/html/5_1_5.html

6)Jiang S, McGrath C, Lo EC, Ho SM, Gao X. Motivational interviewing to prevent early childhood caries: A randomized controlled trial. J Dent. 2020;97:103349.

7)Mortazavi S, Kazemi A, Faghihian R. Impact of Motivational Interviewing on Parental Risk-Related Behaviors and Knowledge of Early Childhood Caries: A Systematic Review. Int J Prev Med. 2021;12:167. Published 2021 Dec 14.

8)Borrelli B, Tooley EM, Scott-Sheldon LA. Motivational Interviewing for Parent-child Health Interventions: A Systematic Review and Meta-Analysis. Pediatr Dent. 2015;37(3):254-265.

9)Naidu R, Nunn J, Irwin JD. The effect of motivational interviewing on oral healthcare knowledge, attitudes and behaviour of parents and caregivers of preschool children: an exploratory cluster randomised controlled study. BMC Oral Health. 2015;15:101. Published 2015 Sep 2.

10)Harrison R, Benton T, Everson-Stewart S, Weinstein P. Effect of motivational interviewing on rates of early childhood caries: a randomized trial. Pediatr Dent. 2007;29(1):16-22.

11)Weinstein P, Harrison R, Benton T. Motivating mothers to prevent caries: confirming the beneficial effect of counseling. J Am Dent Assoc. 2006;137(6):789-793.

12)Colvara BC, Faustino-Silva DD, Meyer E, Hugo FN, Hilgert JB, Celeste RK. Motivational Interviewing in Preventing Early Childhood Caries in Primary Healthcare: A Community-based Randomized Cluster Trial. J Pediatr. 2018;201:190-195.

13)Wu L, Lo ECM, McGrath C, Wong MCM, Ho SMY, Gao X. Motivational interviewing for caries prevention in adolescents: a randomized controlled trial. Clin Oral Investig. 2022;26(1):585-594.

14)Faustino-Silva DD, Colvara BC, Meyer E, Hugo FN, Celeste RK, Hilgert JB. Motivational interviewing effects on caries prevention in children differ by income: A randomized cluster trial. Community Dent Oral Epidemiol. 2019;47(6):477-484.

15)Cascaes AM, Bielemann RM, Clark VL, Barros AJ. Effectiveness of motivational interviewing at improving oral health: a systematic review. Rev Saude Publica. 2014;48(1):142-153.

16)Werner H, Hakeberg M, Dahlström L, et al. Psychological Interventions for Poor Oral Health: A Systematic Review. J Dent Res. 2016;95(5):506-514.

17)Lindson N, Thompson TP, Ferrey A, Lambert JD, Aveyard P. Motivational interviewing for smoking cessation [published online ahead of print, 2019 Jul 31]. Cochrane Database Syst Rev. 2019;7(7):CD006936.

18)Gao X, Lo EC, Kot SC, Chan KC. Motivational interviewing in improving oral health: a systematic review of randomized controlled trials. J Periodontol. 2014;85(3):426-437.

19)Faghihian R, Faghihian E, Kazemi A, Tarrahi MJ, Zakizade M. Impact of motivational interviewing on early childhood caries: A systematic review and meta-analysis. J Am Dent Assoc. 2020;151(9):650-659.

20)Jonah Berger THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術 かんき出版 2021

21)「How to Persuade People to Change Their Behavior」 Jonah Berger Harvard Business Review April 20, 2020

22) Moyers TB, Houck J, Rice SL, Longabaugh R, Miller WR. Therapist empathy, combined behavioral intervention, and alcohol outcomes in the COMBINE research project. J Consult Clin Psychol. 2016 Mar;84(3):221-9.

23) Soria R, Legido A, Escolano C, López Yeste A, Montoya J. A randomised controlled trial of motivational interviewing for smoking cessation. Br J Gen Pract. 2006;56(531):768-774.

 

 

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