予防歯科医をやっていて驚いたこと10

投稿者: | 2021年2月2日
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「あ~あるある!」や「そんなの常識だよ!」と思われることもあるかと思いますが、私が口腔外科医から予防歯科医に転身して驚いたこと、予防歯科医をやっていて気付いたことを順不同で10個書いていこうと思います。

 

1.う蝕が男性より女性に多いという疫学的事実を知ったとき

 これは教科書レベルなので、ご存知の方も多いと思います。正直、考えてもみませんでした。しかも、一般的に考えて女性の方がキレイにしてそうだからう蝕は少ないと思ってしまいませんか?甘い物をよく食べるから?ホルモンの関係?違うんです。歯の萌出が男性よりも早いから、う蝕病原性細菌に暴露される期間が長いからなんです。これを知ってどうなるってわけではありませんが、へぇ。っていう雑学的な知識ですね。

 

2.フッ化物洗口をしている長女がどんなに甘い物を食べても、う蝕にならないこと

 4歳からフッ化物洗口(0.1%)を毎日している私の長女(9歳)が本当にう蝕にならないんです。学童保育でお菓子を毎日食べてくるし、家でもお菓子を食べたりします。長女は「(フッ化物洗口剤で)うがいしてるとむし歯にならない」ことを知っているので、うがいは必ずするのですが、ロクに歯を磨かなかったりします。これは、いいのかわるいのか・・・私のクリニックでは無歯顎でない限り、う蝕予防にフッ化物洗口は必須と伝えています。プロフェッショナルケア以上に、セルフケアが大切というメッセージが伝わればいいなぁ。

 

3.いまだに歯ブラシでう蝕が予防できると思っている人が多いこと

 結構多いと思います。いまだに小学校でそういう教え方をしているようですから。ブログを読んでくださっている方は、歯ブラシでう蝕予防ができるというエビデンスはほぼなく、う蝕予防にはフッ化物が大切なのはご存知だと思うんです。臨床の場で「歯ブラシしてるのにむし歯になってしまう」という人見かけませんか?私はすかさず「フッ化物の取り込み量」の確認をします。だって、あんだけお菓子を食べて歯ブラシがテキトーな長女がう蝕にならずに済んでいるのですから。

 

4.日本の歯科衛生士さんが「う蝕が多い人にフッ化物を応用する」と答えたこと

 患者さんとして歯科衛生士さんがよく来院されるのですが、お勤めの歯科医院での取り組みについて伺うことがしばしばあります。「どんな患者さんにフッ素塗布していますか?」(日本の歯科衛生士には残念ながら「フッ化物応用」というよりも「フッ素塗布」と言う方が多い)「大人の方にも勧めていますか?」と質問したところ「むし歯が多い人、修復物が多い人」「大人には勧めていない」と回答したんです。「う~ん、それでは本当の意味で「予防」できているかな?」と問いかけます。フッ化物は修復物の二次う蝕防止にも有効だとは思いますが、それは予防医療の「第三次予防」にあたりますよね。

 

5.MIの「最小の侵襲」が、実は「全く削らない」ことだと知ったこと

 お恥ずかしながら、私が大学の勤務医だったころはMIって「最小の侵襲」つまり、インレー窩洞のような形態ではなく、う蝕の除去範囲=修復範囲とするようなことだと思っていました。
 マルメでDan先生に「MIとは全く削らない治療なんだ。つまりTBIが最も素晴らしいMIなんだよ」と聞いたとき「あ~っ!なんって勘違いをしていたんだ!」と衝撃を受けたのをいまだに覚えています。帰国して色んな歯科医院のホームページを見て「MIを少なく削る」と書いてあるのを見るたびに、Dan先生との会話を思い出して、クククッとにやけてしまうのです。

 

6.医療者でもフッ化物=危険と思い込んでいる人がいるということ

 歯科医師でも「フッ素(!)は危険だから推奨しません」なんって人がいるわけですから医師、看護師でもそういう人がいるのはわかります。がんや奇形等の副作用との関係性を否定している論文の方が危険性を指摘している論文よりも圧倒的に多いですし、権威主義ではありませんがWHOやIARC、FDIなどの関係機関、ADAなど世界の歯科医師会がフッ化物が有用で安全性が高いことを示しています。色んな考え方やスタンスがあると思いますが「正しく理解する」ことが重要だなと感じます(実はちょうど今、フッ化物反対論の本を購入して読んでいます)。

 

7.スウェーデンの歯科臨床現場が地味だったこと

 初めて訪瑞してクリニックを見学させてもらった際、私は何か新しい薬や新しい取り組み、新しい機器を期待していたのです。スウェーデンのどの臨床現場も、そういったことはなく非常にシンプルだったのです。とかく「最新の治療が良い治療」と考えがちな日本の歯科ですが「エビデンスが高いものが良い治療」ということだったのです。
 Gunnel先生が、ある検査機器について「それはまだエビデンスが少ない/低いから採用していないの」とおっしゃっていました。日本で新しい治療が経過とともに否定された経験をお持ちだと思います。患者さんのためにエビデンス重視の医療を提供するという姿勢が素晴らしいと感じました。

8.日本ではフッ化物バーニッシュ剤が、う蝕予防の効能をうたえないこと


 日本ではビーブランドメディコーデンタル「Fバニッシュ歯科用5%(1981発売開始)」、昭和薬品化工「ダイアデント歯科用ゲル5%(1998発売開始)」の2剤がフッ化物バーニッシュ剤として認可になっています。しかしいずれも知覚過敏抑制剤としての適応となっており、う蝕予防に対する製剤ではありません。
 2020年、3Mからクリンプロ ホワイト バーニッシュ F (5%)が発売されました。この製品も日本では知覚過敏抑制剤としての適応となっています。新しい効果効能を取得するのは難しいとしてもスウェーデンを含む欧米で実績のある製剤を「知覚過敏抑制剤」としてしまうのはなんだかなぁという気がします。

 

9.歯科受診や予防に対する患者の意識が非常に低いこと

 度々「治療費が高い」「通院回数が多い/長い」「PMTCで歯がツルツルにならない」「(プラークコントロールなんていいから)早くむし歯を治療してくれ」と言われます。そういう口コミ投稿を見たり、言われたりするたびに「はぁぁ(またか)」という気持ちになります。
 歯科治療自体を「安いもの」と思いこんでいることも、全国一律なはずの保険診療を「他と比較して高い」と感じてしまうことも、「治療費が安い歯科医院」を探すのも全て間違っていますよね(あ、ちなみにウチのレセ点数は全国平均よりも低値ですよ)。PMTCはポリッシングと違いますし、歯ブラシすらできない人にう蝕治療なんて破壊行為だ・・・一生懸命何回も説明しているつもりなんですが、なかなか理解されず毎回悲しい思いをしています。

 

10.日本の「予防歯科」に嘘や間違いが多いこと

 「PMTCで予防歯科」「MIは小さく削ること」「歯みがきでう蝕予防」「フッ素(!)でう蝕予防」「定期検診で予防」「歯科衛生士がお掃除」などなど。衝撃的なキャッチコピーが歯科医院のホームページで堂々と公開されています。そして、日本では最新の機器があることをアピールするんですよね。よくよく勉強してみると、一見正しそうに見えるこれらが間違だということに気づきます。自分も気をつけなきゃと感じてしまいます。

 なんとなく「あぁ~わかるわかる!」「へぇそうなんだ!」と思ってくれたら、うれしいです。予防歯科を勉強していると毎日が新たな発見・驚きの連続です。一緒に共感してくれる人がいると嬉しいです。

Img : SAS A340

 
 

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