歯周病予防を成功に導くために大切なこと

投稿者: | 2021年2月6日
LINEで送る
Pocket

 歯周病の予防を成功に導くためにはどうしたらよいのでしょう。今回はそんなテーマです。

1.意識・行動変容への援助


 どう行動変容に結びつけるかのヒントは、以前の投稿「TBIを成功に導くために人に行動変容を即す上で有効な3つの方法」「予防歯科から禁煙を考える」をご参照いただきたいと思います。ペンシルバニア大学ウォートン校のジョーナ・バーガー教授「How to Persuade People to Change Their Behavior」の3つの項目1.ギャップに光を当てる。2.質問を投げかける。3.多くを求めすぎない。ですね。
 その他の方法として、クリニックでは「MustをWantに変える」ということを教えています。つまり、「Must:歯磨きをしなければならない」から「Want:歯磨きをしたい!」に変える必要があると。ではどうすればよいのか、それは「メリットを認識させる」ということです。人間は自分にメリットがあると認識すると進んでそれをやろうとします。例えば、行列するラーメン店に1時間も並んで食べようとする人がいますよね。それは、話題になっているみんなが食べているおいしいラーメンが食べられるという「メリット」があるから1時間も並べるのです。あ、ちなみにぼくはそれをメリットと感じないから並ばないですが。パチンコや競馬などのギャンブルもそうです。スリルを味わえる、(あわよくば)お金が増える、友達が出来る・・・そういうメリットがあるから人間は行動に移すわけです。メリットを感じなければ人は行動に移しません。そう、ぼくみたいに。
 それでは、実際に歯磨きをすると患者さんはどんなメリットがあるのでしょうか。歯周病がよくなる。口臭が減る。さっぱりする。ダイエットになる。肺炎予防で長生きできる。入れ歯にならなくて済む、歯を削られない/抜かないで済む・・・こんなメリットが。このような中から患者さんが実際にメリットに感じるようなメリットを認識させるわけです。実際、行動変容に結びつけたくて色んなデータを考えるわけですが、そういった理論よりも感情に訴えた方が人は動くというのは有名な話ですね。

2.もう一度セルフケアの大切さを認識する

 他記事でも散々書いていますが、予防医療の3段階のうちまずは1次予防が重要です。すなわちセルフケアが大切ということです。セルフケアの大切さは、古代ギリシアの医師ヒポクラテスが「流行病」の中で「医術は三つの要素から成る、疾病と患者と医師と。医師は医術のしもべなり。患者は医師とともに疾病と闘わなければならず」と書いています。つまり、紀元前から「患者は医師とともに疾病と闘う義務がある」と言っているのです。
 普通に考えても、歯磨きとかのセルフケアって365日治療出来ちゃうわけですよ。歯科医院での歯周治療いわゆるプロフェッショナルケアはせいぜい3、4か月に1度じゃないですか。どちらが歯周病予防を成功させるために大切かというと絶対的にセルフケアなわけです。定期検診させて歯周病の予防・治療って、まぁ間違いではないんですが、なにか違うなと考えてしまうわけです。
 大学勤務医の時、ある精神病院の歯科口腔外科に勤めていました。通院される患者さんの口腔環境は劣悪で、治療の前にまず歯磨きしなきゃプラークでなんにも見えないよ・・・というような状況でした。ある日、知的障害者施設に入所されている患者さんと仲良くなったので「なんで毎日歯を磨かないの?」と聞いたんです。そうしたら「あのね、歯医者さんで磨いてもらうから別にいいやって思って」って。うゎあ、そうきたかと。「あのね、ここは歯磨き屋さんじゃないからね、歯は自分で磨かないといけないんだよ」と言いました。そしたら「へぇえ、そうなんだ」とおっしゃるんです。
 そうだよな。と思ったんです。セルフケアのほうが大切なことを知らないんだもんな。そこからだよな。と。大切なのは「説明すること」ではなく「理解してもらうこと」「伝えること」よりも「伝わったかどうか」が大切だよなって。あ、その患者さんは無事に歯を磨いてくれるようになりました。今まではプロフェッショナルケアOnlyだったのですが、セルフケア&プロフェッショナルケアという素晴らしい両立が実現したんです。
 スカンジナビアンペリオ(北欧式の歯周病学)はアメリカンペリオ(米国式の歯周病学)よりも一見、地味な感じがします。まずはセルフケア。歯周外科もオプションとしてあるけれど、それよりもセルフケアの重要性を訴えます。地味なんだけれど、それが大切。うん、そうだよな。と納得できるんです。

3.全身疾患との関りを学ぶ

 Dan先生との歯周病の会話で大切だなと思ったのは、セルフケアのモチベーション向上には全身疾患との関りから歯周病を「自分の問題」であると認識してもらうという点でした。全身疾患と歯周病の関わりについて有名なデータをほんの一部ですが、ご紹介してみようと思います。
・ 日本人が永久歯を喪失する原因 第1位
・ 10本以上歯を失うと、8年の間に死亡リスクは5割以上高まる。
・ 2型糖尿病では歯周治療により血糖が改善する可能性があり推奨される。
・ 歯肉縁下の歯周病菌が血行性に子宮内へ転移し肺炎と胎児を絶命させた。
・ 歯周病に関連した慢性炎症がアルツハイマー病の原因となる可能性が示された。
・ 歯周炎は心臓血管疾患(CVD)のリスクを上昇させる
・ 肥満の程度とアタッチメントロスの程度とが優位に相関する。
・ 歯周病を発症していると虚血性心疾患になるオッズ比は2倍に匹敵する。
・ 口腔衛生状態と誤嚥性肺炎に関連性がある。
 大切なのは医療者として、こういうデータがあるよと紹介することではなく、こういうデータが「自分の問題」であると患者さんに認識してもらうということなんだと思います。ぼくは訪瑞するまで「こういうデータがあるんや、恐ろしいやろ」なんてやってしまっていました(反省)。

 
4.参考文献

・Jonah Berger Harvard Business Review April 20, 2020
・ヒポクラテス全集「流行病」大槻真一郎編
・8020財団第2回永久歯の抜歯原因調査
・8020財団会誌8020, No.12:96, 2013
・日本糖尿病学会糖尿病診療ガイドライン
・HanYW et al.: Obstet Gynecol,115(2):442,2010
・Takeuchi L et al.: J Am Geriatr Soc,65(5)e95-e100, 2017
・D’Aiuto F et al. J Periodontal Res 2004;39(4):236-241
・アメリカ国民健康栄養調査(NHANES III)
・Beck J, et al:J Periodontol, 67(10): 1123-1137, 1996
・YoneyamaT et al:Lancet,354(9177):515, 1999

スカンジナビアンペリオは「基本」が大切。
 
 

関連記事