【エビデンス】キシリトールは虫歯を予防しない?って本当?に答えます。

投稿者: | 2021年2月12日
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 キシリトール(xylitol)は白樺などを原料として作られる糖アルコールの一つです。自然界にはイチゴやナス、レタスなどに含まれています。糖アルコールはマンニトール、マルチトール、ソルビトールやエリスリトールなどがあります。糖アルコールの多くは甘味料として用いられ、キシリトールもこの仲間です。キシリトールと聞いてまっ先に思い起こすのは「むし歯にならない甘味料」ではないでしょうか?実は糖アルコールであれば、キシリトールじゃなくてもむし歯になりません。キシリトールがたどってきた歴史を振り返り、正しい知識を身につけたいと思います。

 

キシリトールの歴史

1891 G. Bertrandらがキシリトールを報告
1943 J. F. Carsonらがキシリトールの結晶化に成功1)
1971 Scheinin A, Mäkinen KK.がキシリトールのう蝕予防に関する論文を発表2)
1975 フィンランドとアメリカでキシリトールのチューインガムが発売
1983 キシリトールの安全性についてWHOとFAOが発表
1988 フィンランド歯科医師会がキシリトールの摂取を推奨
1997 旧厚生省が食品添加物として認可、ロッテ「キシリトールガム」発売
2001 ロッテ「キシリトールガム」特定保健用食品(トクホ)認可
2008 EFSAが子供の虫歯リスクを低減すると発表
2011 EFSAが砂糖をキシリトールに置換することで砂糖を含む食品と比較して歯のミネラル化を維持できると発表
2015 コクランレビューが「キシリトールの摂取がう蝕予防になるというエビデンスは低い」と発表

 

ミュータンス菌への効果とプラークの変化

 キシリトールを長期にわたって摂取している場合,口腔内のミュータンス連鎖球菌群はキシリトールによる無益回路の生成が発生しないキシリトール非感受性の株が多くなってきます.この非感受性菌は感受性菌と比較して酸の産生が少なく,プラークの原因となる不溶性グルカンなどの不溶性菌体外多糖を作りませんので,むし歯になり難い菌といえます.また,不溶性菌外体多糖を作らないということは,プラークの量が少なくなり粘着性も低いため,歯ブラシで清掃しやすくなることで,これらのことからう蝕になりにくい甘味料と言えます

 このようにキシリトールがミュータンス連鎖球菌群の代謝を阻害し、プラークの性状を変化させることによって「う蝕になりにくい」ということになっているわけです。

 

チューイングガムのう蝕予防効果

 チューイングガムを食べるとその刺激によって唾液分泌が促進されます。味がついていればなおさらですよね。唾液中には殺菌・抗菌作用を持つリゾチームやラクトフェリン、ペルオキシダーゼや各種免疫グロブリンが含まれています。また、唾液の主要成分はNa+、K+、Ca2+、Cl、HCO3-などですから唾液を増加させることによって再石灰化の効果も高まることが考えられます。さらに、重炭酸塩やリン酸塩による緩衝作用によっても食事後などのpHの低下をもとに戻す緩衝作用が期待できます。つまり、これらの作用はキシリトールの作用というわけではなく、チューイングガムを食べることによって生じる作用ということができると思います(キシリトールに再石灰化能はない)。唾液分泌が少ない方はう蝕になりやすいことが明らかになっています。反対に唾液分泌を促進すれば、う蝕を予防する方向に向かうというわけですね。
 蛇足ですが、う蝕予防ということであればフッ化物配合チューイングガムがよいということになります。日本ではフッ化物配合のチューイングガムは販売されていませんが、スウェーデンのドラッグストアで購入できます。ただ・・・すごくおいしくないです。

 

キシリトールの安全性

 キシリトールの安全性についても一応触れておきます。キシリトールに毒性はほぼないとされていますが、研究で明らかになっている有害事象はお腹の張り、軟便、下痢など消化管に関するものです。日本で販売されているキシリトール配合のお菓子には「一度に多量に食べると体質によりお腹がゆるくなる場合があります」と記載されています。これはキシリトールに限らず糖アルコール甘味料全般に言えることですが、糖アルコールが小腸で消化・吸収されにくく、そのまま大腸に移行した際に大腸内の浸透圧を下げようとするために起こります。ただ、キシリトールガムの摂取量ではほとんど影響がないとする研究も存在しています。ちなみに吸収速度が遅いため血糖値の急上昇がなく、代謝するのにインスリンを必要としませんので糖尿病の方が摂取しても問題ありません。

 

トゥルク シュガースタディ(Turku Sugar Study)

 1974年~1976年にかけてフィンランド トゥルク大学のArje Nahum Scheinin、Kauko Kalle Mäkinenらによって報告されたヒト(トゥルク大学の学生)を対象とした甘味料とう蝕の発生率に関する研究です4)。1970年代、彼らはキシリトールを含む糖類の比較研究を繰り返しており、この研究はキシリトールとう蝕発生に関する画期的な研究でした。
 ショ糖群35人、フルクトース群38人、キシリトール群52人を設定し、2年間コーヒーや紅茶、お菓子やジャムなどの甘味料として完全に置換させました(2年間の調査中10名の被験者が研究を中止したか除外されたようです)。2年後に臨床的・レントゲン撮影によりう蝕を診査したところ、う蝕、欠損、修復の平均増加率(歯面数)はショ糖群で7.2、フルクトース群で3.8、キシリトール群で0.0でした。フルクトースはショ糖に比較してう蝕誘発性が低いが、キシリトール群ではう蝕の発生が大幅に減少していた。という研究です。
 トゥルクシュガースタディが示すことは、フルクトースは不溶性グルカンの器質とはなりませんがショ糖と同様にう蝕の原因になることを説明しています。つまりう蝕の原因はプラークだけではない、ということになります。また、キシリトールがう蝕の原因にならないことを示し、その後キシリトールの研究が活発化しました。

 

キシリトールがう蝕予防になるというエビデンスは乏しい(Cochrane Reviews)

 2015年のイギリスマンチェスター大学歯学部のPhilip Rileyらによるコクランレビュー3)を訳して簡単にご紹介したいと思います。
 Philip Rileyらの研究グループは1991~2014年に報告されたキシリトールによる虫歯予防効果を検討した研究(ランダム化比較試験)10件、計5,903人分のデータを評価しました。キシリトールを含む製品(歯磨剤、チューイングガム、シロップ、菓子、歯磨きシートなど)の虫歯予防効果は、「乳児」と「大人」に対しては明らかなエビデンスに繋がらなかったとし、一方、4,216人の「子供」を対象とした研究ではキシリトール10%+フッ素配合の歯磨剤を2.5~3年間使ったところ、フッ素のみを配合した歯磨剤よりも虫歯が13%減少させたと報告しました。しかし、この研究結果も偏りがある可能性が高く、研究グループは結果を認めながらも「質の低いエビデンス」と評価しました。
 キシリトール摂取による有害事象は、4件が有害作用は認められなかったと報告。2件が試験群間で有害作用の発生が類似していたと報告。残り4件は有害作用について言及しているが使用可能なデータを報告していない、あるいは全然言及していないと報告しました。つまり、ほとんどの研究は何らかの偏りがある可能性が高く、キシリトール製品がう蝕を予防するという効果を裏付けるエビデンスは乏しい。という結論となっています。

 

100%のキシリトールじゃないと意味がない。

 東北大学 山田正 名誉教授が日本トゥースフレンドリー協会Webページに寄稿した「むし歯は食生活習慣病」が非常に理論的で興味深い内容になっています6)。その中で、「キシリトールは砂糖の齲蝕誘発性にうち克てない」が興味深かったのでご紹介したいと思います。
 日本では、う蝕予防のためにキシリトールが50%以上配合されているガムを毎食後に摂取するとよいといわれています。しかし、山田先生は0.5%の砂糖に9.5%のキシリトールを加えて歯垢のpH変化を観察したが、pH低下を抑えることはできなかった(つまり砂糖の20倍ものキシリトールを加えてもpHの低下を抑制できなかった)としています。これは砂糖が少しでも含まれていると歯垢のpH低下は避けられないという結果なわけですから、ただ単に「キシリトール入り(配合)」というお菓子じゃダメということになります。
 山田先生は「キシリトールに抗齲蝕誘発性、すなわち、むし歯の発生を防ぐような作用があると言うのは、間違いです。キシリトールそれ自身にむし歯を起こす能力がないだけの話です」と記しています。

 

どうやって活用するべきか

 唾液が少ない患者さん,緩衝能が低い患者さんに対して活用するとよいと思います.これはキシリトールというよりもチューイングガムの効果です.咀嚼運動によって唾液分泌を促進し,食後にpHの上昇をすみやかにするためにです.

 

まとめ

・ミュータンス菌の代謝阻害とプラークの性状変化によってむし歯になりにくい
・う蝕を誘発しないが、う蝕に抵抗(予防)するというエビデンスは低い
・初期う蝕の再石灰化はキシリトールの能力ではなくチューイングガムによる唾液分泌促進の能力
・キシリトール配合菓子に少しでも砂糖が入っていたらpH低下を抑えることはできない

 

参考文献

1)J. F. Carson, S. W. Waisbrot, and F. T. Jones A New Form of Crystalline Xylitol J. Am. Chem. Soc. 1943, 65, 9, 1777–1778

2)Scheinin A, Mäkinen KK. The effect of various sugars on the formation and chemical composition of dental plaque. Int Dent J. 1971 Sep;21(3):302-21. 

3) Riley P, Moore D, Ahmed F, Sharif MO, Worthington HV. Xylitol-containing products for preventing dental caries in children and adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 26;(3):CD010743.

4)Scheinin A, Mäkinen KK, Ylitalo K. Turku sugar studies. V. Final report on the effect of sucrose, fructose and xylitol diets on the caries incidence in man. Acta Odontol Scand. 1976;34(4):179-216.

5) Oku T, Nakamura S. Threshold for transitory diarrhea induced by ingestion of xylitol and lactitol in young male and female adults. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2007 Feb;53(1):13-20.

6) 山田 正「むし歯は食生活習慣病」https://www.toothfriendly-sweets.jp/letter/diet/index.html (Retrieved on Feb11,2021)

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