フッ化物(フッ素)配合歯磨剤の過去と未来

投稿者: | 2021年2月24日
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 フッ化物(フッ素)の局所応用法には大きく分けて(1)フッ化物配合歯磨剤 (2)フッ化物塗布 (3)フッ化物洗口と、3つの方法があります。今回、実は「フッ化物洗口を重要視する理由」という記事を書こうとしていたのですが、書いているうちにフッ化物配合歯磨剤に関する記事が長くなってしまったので、フッ化物配合歯磨剤を切り分けて公開してみたいと思います。

フッ化物配合歯磨剤とは


 日本で初めてフッ化物配合歯磨剤が発売されたのは1948年「ライオンFクリーム」でした。しかし値段が高価で、なかなかフッ化物配合歯磨剤は普及しなかったようです。フッ化物配合歯磨剤が一般的になったのは1981年に発売された「クリニカ」からだと言われています。2010年にはフッ化物配合歯磨剤の市場占有率が90%を超えました。
 フッ化物配合歯磨剤は、毎日の歯磨きで簡便にフッ化物を取り込むことが出来る一方、コントロールが困難で方法や時間によって効果に差が生じる可能性があり、さらに歯磨きによる刺激唾液でフッ化物濃度が薄まってしまう可能性が高いというデメリットがあります。それでも、フッ化物配合歯磨剤はフッ化物局所応用の基本(ベース)となりうるものです。

フッ化物配合歯磨剤でう蝕が減った?

 2016年のデータで市場占有率91%(現時点でこれが最新)、そして12歳児う蝕経験歯数(DMFT)(本)は0.84本を記録しています(ちなみに2016年のスウェーデンは0.69本!)。20年前の1996年は47%でDMFTが3.51本で10年前の2006年は89%でDMFTが1.71本ですから、フッ化物配合歯磨剤の市場占有率との相関関係が表れていますね。・・・と言いたいところですが、これは残念ながら「フッ化物配合歯磨剤によりDMFTが減少した」と直接は言えません。口腔衛生に関する臨床研究の難しさはここにあるのですが、フッ化物配合歯磨剤だけではなくフロスを使うようになったからかもしれませんし、そもそもショ糖の摂取量が少なくなったからかもしれませんし、歯科医院での定期検診者が増えたからなのかもしれません。でも、DMFTが減少したひとつの要因になった可能性は充分あります。

フッ素イオン濃度上限が1,500ppmへ

 日本ではフッ素イオン濃度1,000ppmを上限とする時代が長く続き、その間海外旅行をした歯科医は1,500ppmの歯磨剤をお土産にするというのが定番でした。2017 年 厚生労働省は国際規格ISOに準拠しフッ素イオン濃度1,000~1,500ppmのフッ化物配合歯磨剤を承認しました。現在、日本では6歳未満は500ppm、6歳~14歳は1,000ppm、15歳以上は1,000ppm~1,500ppmが推奨されています。WHOはフッ化物配合歯磨剤のフッ素イオン濃度が500ppm 高くなると、う蝕予防効果が6%上昇すると報告しています。ますますう蝕は少なくなってくるような気がします。少なくなりはするのですが、う蝕の発生形態が異なってきます。

注視すべきは大人の根面カリエス

 先述した通り、2016年日本の12歳児のDMFTは0.84本です。もう単純に言うと子どものう蝕が無くなっているのです。むし歯の洪水なんて言われていた時代がとうの昔のようです。今は高齢化や口腔衛生の意識向上に伴い「歯が残る」ようになりましたので、大人(特にお年寄り)の根面カリエス(う蝕)を目にすることが多くなりました。根面カリエス対策歯磨剤も発売されていますね。歯科医師・歯科衛生士教育は今後、子供のう蝕の治し方ではなく、根面カリエスの治し方のウェイトが大きくなるんでしょうね。

イエテボリテクニックで斑状歯になる?!

 ちょっと前、歯磨き後に少量の水ですすぎ、フッ化物配合歯磨剤を口腔内に残す「イエテボリ(ヨーテボリ)テクニック」によって斑状歯(歯のフッ素症)が起こるなんて言う先生を目にしましたが、斑状歯は学問的に「①歯(エナメル質)の形成期に②長期間③過剰にフッ素を摂取した場合」に起こるものとされています。6歳以上であれば大体の歯冠は完成していて、フロリデーションが行われていない日本だと長期間+過剰にフッ化物を摂取することはなかなかに困難ですので、まず斑状歯は起こらないことが理解できます。イエテボリテクニックについてはまたの機会に取り上げてみたいと思います。

 

 

参考文献


・ライオン歯科衛生研究所「統計資料フッ素配合歯みがき剤のシェアと12歳児のDMFT」
https://www.lion-dent-health.or.jp/study/statistics/dmft.htm (Retrieved on Feb24,2021)
・WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use. Fluorides and
oral health. WHO Technical Report Series, Geneva, 1994,p26-33
・日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会編(2018). フッ化物応用の科学 第2版
口腔保健協会
・WHO 「Country Areas – Oral Health Country/Area Profile Project」
https://capp.mau.se/ (Retrieved on Feb24,2021)

Photo : malmo station

フッ化物配合歯磨剤のおすすめはやっぱりこれ。

 

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