【考察】北欧のことば「ヤンテの掟/Jante law」について調べてみた。

投稿者: | 2021年3月3日
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 今回、なんとなく読んでいた本に出てきた「ヤンテの掟」について興味があったので少し調べてみることにしました。ヤンテの掟は北欧人の気質をよく表すとされ、北欧人を理解するのに重要と考えられています。今回、残念ながらヤンテの掟が書かれた小説『A Fugitive Crosses His Tracks』は手に入りませんので、Michael Boothの著書やWikipediaの英語版などを基に「ヤンテの掟」を取り上げてみようと思います。

 

ヤンテの掟ってなに?

 

 デンマーク生まれのアクセル・サンデモースが小説『A Fugitive Crosses His Tracks / En flyktning krysser sitt spor, 1933』の中で述べた掟のこと。ヤンテとはデンマークにあるという架空の小さな村の名前。村のモデルはサンデモースが生まれ育ったデンマーク、モルス島のニコービン(Nykøbing)とされています。物語はその架空の村での労働者階級の生活を描いたものです。ヤンテ村では、この不文律とされる掟を破ったヤンテ人は、町の調和や社会の安定、統一性を維持したいという町の共同体に反しているため、疑いの目で見られ、ある種の敵意を抱かされます。ヤンテの掟(Jante law)は、北欧諸国の平等主義的な性質をよく表すとされています。掟に書かれているスタンス自体は北欧に古くから伝承される考え方とされています。

 

ヤンテの掟(Jante law)



 1.You’re not to think you are anything special.
  自分の事を特別な存在だと思ってはならない。

 2.You’re not to think you are as good as we are.
  自分は他人よりも善良であると考えてはならない。

 3.You’re not to think you are smarter than we are.
  自分は他人よりも賢い人物であると思ってはならない。

 4.You’re not to convince yourself that you are better than we are.
  自分は他人よりも優れていると思ってはならない。

 5.You’re not to think you know more than we do.
  自分は他人よりも知識が深いと思ってはならない。

 6.You’re not to think you are more important than we are.
  自分は他人よりも重要な人物であると思ってはならない。

 7.You’re not to think you are good at anything.
   自分は何かに秀でていると思ってはならない

 8.You’re not to laugh at us.
   他人の事を笑ってはならない。

 9.You’re not to think anyone cares about you.
  自分が他人から気にかけてもらえていないと考えてはならない。

 10.You’re not to think you can teach us anything.
  自分が他人に何かを教えられると思ってはならない。

 

アクセル・サンデモースはどんな人?

 

 アクセル・サンデモース(Aksel Sandemose (Axel Nielsen; 1899 – 1965)は、デンマーク、モルス島のニコービン・モルスで生まれます。1916年から教師として働き、1921年に苗字をニールセンから母親のふるさとの地名を取ってサンデモースに改名します。1923年にデンマークで小説家としてデビュー。1930年ノルウェーのネソドデンに移住します。1933年には、今回取り上げるヤンテの掟が書かれた『En flyktning krysser sitt spor』を出版します。1936年に英語翻訳され『A Fugitive Crosses His Tracks』として出版されます。1940年サンデモースが住んでいたノルウェーは第二次世界大戦、ナチス・ドイツによるデンマーク・ノルウェー侵攻に敗北し占領されてしまいます。サンデモースはナチス・ドイツの侵略に対するレジスタンス運動を理由に1941年にスウェーデンに亡命します。1944年ノルウェーが解放されると再びノルウェーに移住し、ソーンデレドに定住しました。1963年にはノーベル文学賞の最終候補6人のうちの1人となりますが落選、1965年にデンマークのコペンハーゲンで亡くなり、ノルウェーのオスロに葬られました。

 

北欧人の気質とヤンテの掟

 

 ぼくは世界中を旅するのが好きなので、特定の航空会社を選ぶわけでもなく世界中の色んな航空会社に搭乗します。搭乗客が自国民とは限りませんが航空会社や搭乗客、機内をみると国民性がよく現れるなぁと感じています。北欧の航空会社(代表的なのはSASスカンジナビア航空です)の搭乗客は、搭乗まで列を作り静かに待っています。話をするときでも周囲に気を使ってヒソヒソ声。機内でも騒がず品よく離着陸を待っています。搭乗客はジャケットを着た紳士・・・というイメージ。それが普通じゃないかって?それが、そんなことはないんですよ。むしろ特別に感じるくらいです。もちろん一つの視点にすぎませんが、北欧人と日本人ってすごく共通点があって似ているのではないかって感じています。

 フランスの哲学者、パスカルは「パンセ」の中で、人間にとって最大の悪徳は「自己愛」としています。自己愛を構成するものは「自我」であり、この自我こそが諸悪の根源であるとしています。自我の性質は自分を全ての物事の中心に考え、他人をそれに従わせようとするものであり、それは虚栄心を生み出すとしています。ヤンテの掟に書かれている十戒は、いわば人間が本質的に持っている虚栄心を戒めるものであり、自己愛を慎み謙虚であれと戒めているように感じます。

 ヤンテの掟は、北欧諸国共通の信念とされ北欧人の規範の元になっている一方、ヤンテの法則と自殺率の高さを結びつけたり、「出る杭は打たれる」というような空気を作り出すのではないか、と批判されることがあるようです。また、このヤンテの掟は現代の北欧人からすると「行き過ぎ」「古い」価値観だと映っているそうです。しかし、ヤンテの掟が示す謙虚さってすごく大事なことだよなぁと感じました。ヤンテの掟は、誰かに「こうあるべき」とするのではなく自戒として「自分はこう生きよう」と捉えられればいいんじゃないでしょうか。

 

参考文献

ブレーズ・パスカル 「パンセ」 岩波書店

マイケル・ブース 限りなく完璧に近い人々 なぜ北欧の暮らしは世界一幸せなのか? 角川書店

北欧の小さな大国「スウェーデン」の魅力150 西田孝広 雷鳥社

https://www.gla.ac.uk/media/Media_404385_smxx.pdf (Retrieved on March3,2021)

https://en.wikipedia.org/wiki/Law_of_Jante (Retrieved on March3,2021)

 

 

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