「予防に取り組まない歯科医は、自分の仕事・給料のために火をつけてまわっている消防士のようなものだ」

投稿者: | 2021年3月4日
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「消防士は火事を消すのではなく、火事を出さないように働くべきだよね」

 ダン先生と話しをしていると、難しい話でも例え話に置き換えて丁寧にお話をしてくれます。この例え話による説明手法って新約聖書によく出てくるんですけれど、哲学でも同じようにわかりやすく説明するときに実際に起こりやすいような出来事に置き換えたりします。ダン先生を真似して例え話を使ってスタッフとコミュニケーションを取ってみたりするんですけれど、うまく行きません。修行が足りませんね。さて、表題の話です。

 ぼくの職場では「一度修復した歯はう蝕(むし歯)になりやすいのを理解していますか?」という質問項目があるアンケートを取っています。それを知っている方は大体半分くらいでしょうか。一度修復してしまうと、どうしても修復部とのギャップが生じて二次う蝕を生みやすくなります。なので、修復治療は諸刃の剣だということを知っておいた方がよいと思います。そんなの当たり前だろうと考えがちなんですが、歯科医療従事者であっても、う蝕→修復治療→完治って考えてしまう人が多いんです。う蝕治療(修復)はキズにバンソーコーを当てているだけで決して治ることはない治療です。日本では歯科医療従事者も患者さんもその視点が欠けていることが多いです。

 予防歯科に携わってびっくりするのは、患者さんが「早く削って治してほしい」と要望することの多さです。「そんなに削ってほしいのか・・・」と思ってしまうのですが、ここで「カリエスリスクを下げてから修復治療をしないと、また再発するだけですよ、まずはプラークコントロールの改善のほうが優先です」というような話をしようものなら「治してくれないなら他へ行く!」って・・・嗚呼。

 小学生に「消防士さんの仕事は?」と聞かれたら「火事を消すこと!」と答えるでしょう。じゃぁ「歯医者さんの仕事は?」と聞かれたら十中八九の小学生が「むし歯を治すこと!」と答えるでしょう。これ、実際にうちの長女が4、5歳くらいの時に「パパのお仕事はむし歯を治すことでしょう?」と言ったんです。でも、訪瑞してダン先生から色々教わっていたぼくは、ほぅらきた!と言わんばかりに「違うよ、パパの仕事はむし歯にならないようにすることだよ」と答えました。どうですか?カッコいいでしょ?

 火事の話でダン先生が教えてくれた「ぼくら歯科医はどう働くか」という話なんですが、日本の歯科医療には圧倒的に欠けている視点ですごく哲学的で面白いなと思ったんです。日本の一般的な歯科医院にお勤めの歯科衛生士さんは、フッ化物を歯面に塗布することが目的・目標になってしまいます。PMTCで歯面をきれいにすることが目的・目標になってしまいます。しかし、それは歯に対してどうするかという方法論であって、患者さんと人として向き合っていることにはなりません。つまりフッ化物塗布やPMTCは予防歯科の目的・目標にはなり得ないのです。わたしたち歯科医療従事者はどこに目的・目標を設定するべきなのでしょうか。

 

「予防に取り組まない歯科医は、自分の仕事・給料のために火をつけてまわっている消防士のようなものだよね」

 日本の歯科医療をよくご存じのダン先生が皮肉たっぷりに言うその言葉にすごく耳が痛いなぁと感じました。とかく毎日の忙しさに本来の目的・目標を忘れ、患者さんのプラークコントロールが確立していないのに修復したりしていませんか?カリエスディテクターでう蝕を染め出そうとしたらプラークが染まってきたという経験ありませんか?何が大切なのかを見失わないようにしたいと思っています。

Photo:ご飯を食べたいダン先生

 

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