新社会人・若手社員にお勧めしたい本3選【哲学編】

投稿者: | 2021年3月11日
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 3月になり寒さも和らぎつつあります。今回は新生活シーズンということで、予防歯科の話題から少し離れ「新社会人・若手社員にお勧めしたい3選」と題して哲学に関する本を紹介してみたいと思います。今回ご紹介するのは

1.ヒルティ / Carl Hilty「幸福論」岩波文庫
2.フランクル / V. E. Frankl「それでも人生にイエスと言う」春秋社
3.セネカ / Seneca「生の短さについて」岩波文庫

の3冊です。いずれも僕自身の人生観や考え方に影響を与えてくれた本です。出来るだけネタバレしないように気を付けます。3つとも難解な作品ではありませんので、ぜひ手に取って読んでもらいたいです。

 

1.Carl Hilty「幸福論」岩波文庫

 「真の仕事ならどんなものであっても必ず、真面目にそれに没頭すれば、間もなく興味がわいてくるという性質をもっている。人を幸福にするのは仕事の種類ではなく、創造と成功のよろこびである」 カール・ヒルティ

 カール・ヒルティはスイスの哲学者で政治家です。敬虔なクリスチャンでもあるヒルティは世界三大幸福論の一つである「幸福論」や「眠られぬ夜のために」など自身の宗教観に基づく著作で知られています。本書は座右の書として学生の時から読んでは処分し、また買い戻して読んでは処分して・・・ということを繰り返している本です。つまり、ぼくにとって、人生に迷ったときにやっぱり読みたい本。ということです。
 現代は兎角、金融商品だったりネットビジネスだったりと金銭的な利益になるような所謂、端的に上手くやろうぜ的なハウツー本が書店に並んでよく売れているようです。つまりそれは現代人がそれを欲しているということなのだと思いますが、人間の本質はそこにはないはずです。小手先だけの利益だとか、成功だとか、お金だとかに心を惑わされず、しっかりとした思考の上に立ち、物事の本質を捉えられる社会人になって欲しいと思っています。
 本書では「真の幸福は仕事からしか得られない」というように徹底的に仕事に没頭するように勧めています。しかし、ただ猛烈に仕事をしなさいと言っているわけではありません。1部は主に仕事の取り組み方や人生について、2部は教養や人間関係について、3部は信仰に関することが書かれています。まずは1部を読み、自分の心に感じるものがあったら2部に進むとよいと思います。3部に関してはもちろんお勧めではありますが、「新社会人・若手社員にと」いう今回のテーマからは少し離れますので興味があれば読むことをお勧めします。

 

 

2.V. E. Frankl「それでも人生にイエスと言う」春秋社


「人生のほうが私たちに意味を問いかけているのだ。私たちはその問いに答えなければならない。生きていくということは、問いに答えることにほかならない」フランクル

 第四の巨頭、ナチスドイツの収容所生活を通して書かれた「夜と霧」で有名な精神科医フランクルですが、今回はその続編と言える本書をお勧めしたいと思います。本の題名「それでも人生にイエスと言う」はブーヘンバルト収容所に収容された人々が作った歌詞の一部で、この歌はブーヘンバルト収容所で歌われていたというものです。2019年、ポーランドを訪問し、アウシュビッツ第一強制収容所、アウシュビッツ第二強制収容所(ビルケナウ)を見学することができました。この場所で数万人もの人が命を落としたのだと思うと、なんとも言い表せない感覚に陥りました。しかし、同時に「確かにこの場所で多くの人が生きていたのだ」とも感じました。そして現在、収容所を守り、後世に伝え続けようと努力されている職員の方々に畏敬の念を抱きました。

 フランクルは本書の中で現代人の私達に、自身の収容所生活を振り返り、どんな状況であっても生きることを諦めてはならないと教えてくれます。みなさんは働き始め、忙しい毎日を送っていると、ふと「なんで働いているのだろう」「人生は何のためにあるのだろう」と感じ迷いを感じてしまうことがあると思います。フランクルは本書の中で明確にその答えを出しています。「人生のほうが私たちに意味を問いかけているのだ。私たちはその問いに答えなければならない。生きていくということは、問いに答えることにほかならない」と。フランクルは人生が投げかけてくる問いに対し「行動」で示さなければならないということを言っているのです。

 

 

3.Seneca「生の短さについて」岩波文庫

「ようするに、だれもが認めるとおり、多忙な人間は、なにごとも十分になしとげることができない。弁論においてもそうだし、学芸においてもそうだ。じっさい、[忙しさで]心が散漫になると、なにごとも深く受け入れることができなくなる。そして、すべてのものを、むりやり押し込まれたかのように、吐き出してしまうのである。」セネカ

 ローマ帝国の哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカはストア派哲学者の中でも有名で皇帝ネロの家庭教師を務めたことでも知られています。セネカの代表的な著作「生の短さについて」は友人パウリヌスに宛てて書かれています。パウリヌスは当時、ローマ帝国の食料管理の仕事に就いており、今でいう官僚のような多忙で責任のある仕事に就いていました。セネカはパウリヌスに対してこの忙しい仕事から身を引き、閑暇な暮らしをするように勧めています。セネカは「人生の短さについて」の中で「人生は短くない。つまらないことに時間を使わなければ十分に長い。」と語り、何をするのが重要なのかを考えたほうがよいと説いています。
 今回、「新社会人・若手社員に」をテーマにしています。皆さんには一生懸命仕事に打ち込んでもらいたいので、この作品を取り上げようかどうか正直迷いました。しかし、人生の早い段階で本書を読むとより充実した人生を送れるものと考え取り上げることにしました。

「過去というわれわれの時間の部分は、神聖で特別なものだ。それは、人間世界のあらゆる偶然性を超越し、運命の支配がおよばない。欠乏にも、恐怖にも、病気の襲撃にもさらされない。かき乱されることも、奪い去られることもありえない。過去は、なんの心配もなく、永遠に所有することができるのである」

 本書で一番響いたのは、この「過去」についての記載です。「過去と他人は変えられない」というアドラー心理学でよく聞くフレーズで「変えられるのは現在と未来だけ(つまり過去に固執するのはよくないよ)」と考える人が多いかと思います。でも、セネカは「過去だけが唯一自分のものなのだ」としていたのです。現在なんて一瞬だし、未来なんてあるかどうかわからないし、誰かに時間や機会を奪われるかもしれない。過去というものだけが唯一自分のものなんだ。っていう。あぁ、そうだよな。と・・・。
 岩波文庫版の他に光文社古典新語文庫で「人生の短さについて」として関西大学の中澤先生が訳されたものが発売されています。内容は一緒ですが、ただ中澤先生のほうが読みやすい文体なので、普段本を読みなれていない方はこちらを読まれることをお勧めします。

 

 


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