【エビデンス】フッ化物洗口液(剤)のう蝕予防効果と安全性 ~フッ化物洗口の個人応用をおすすめする理由~

投稿者: | 2022年11月6日
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 2022年11月現在で最も新しいデータ「平成28年歯科疾患実態調査」の結果で「フッ化物洗口をしたことがある」のは1~14歳で13.4%とされています.これには集団フッ化物洗口が含まれていますから,純粋にフッ化物洗口を家でやっているよという人は,もっともっと少ないはずです.

 フッ化物洗口って幼稚園や小学校などの集団でやるものという先入観はありませんか?確かにフッ化物洗口のはじまりは集団フッ化物洗口でした.しかし,スウェーデンでは何年も前から薬局に並んでいましたし,日本でもセルフメディケーション(OTC)用のフッ化物洗口液が置かれるようになっています.日本の歯科医療従事者はもっとフッ化物洗口について説明し,う蝕予防のためにしっかりと推奨するべきだと思います.もう特別なものではありませんし,効果も質の高いエビデンスで支持されています.

 今回はフッ化物洗口液についてエビデンスとともに知識を整理してみたいと思います.

 

1.フッ化物洗口液をお薦めする5つの理由

 

(1)自律型である「セルフケア」だから

 一般的なフッ化物応用法には①フッ化物配合歯磨剤,②フッ化物洗口,③フッ化物塗布の3つの方法があります.このうち,①フッ化物配合歯磨剤と②フッ化物洗口はセルフケアによるもの,③のフッ化物塗布は歯科専門職によって行われるプロフェッショナルケアです.スウェーデンのカリオロジーはセルフケアに重きがおかれ,フッ化物配合歯磨剤の使用はもちろんですが,フッ化物洗口液の使用も重要視されています.

 日本の予防歯科事情に精通していらっしゃるダン先生(Dan Ericson/前マルメ大学歯学部う蝕予防学主任教授)に「日本とスウェーデンの予防歯科の大きな違いはどこにあるとお考えですか?」と,あえて漠然とした質問を投げかけたところ「そうだね・・・日本の予防歯科は歯科医院で管理しようとするものだけれど,スウェーデンの予防歯科は患者さんに健康な口をお返しするケアなんだ」と返ってきました.

 本来,健康な歯や口腔は患者さんのものであって,ほとんどの場合セルフケアによってう蝕予防が成立することができるのですから,セルフケアに関する正しい知識を患者さんに与え,そのセルフケアを実践してもらうことがすごく大切なことだと考えています.

 

(2)う蝕予防に意識を向ける,参加させることができるから

 フッ化物洗口液とフッ化物配合歯磨剤,フッ化物塗布との大きな違いはどこにあるのでしょうか.効果?方法?もちろんそれらは違いますが,もっと重要な違いがあると考えています.それは「患者さん自身の意識がう蝕予防に向いているか,自ら参加しているか」です.

 フッ化物配合歯磨剤で「わたしはう蝕予防のためにこの1,450ppmのフッ化物配合歯磨剤を使っている!」と意識しながら使用している方は一般的にそれほど多くないでしょうし,歯科医院でフッ化物塗布を受け「わたしはう蝕予防のためにこのフッ化物塗布を受けている」と意識している方は少ないと思います(無料でフッ化物塗布を受けてしまっていたりする場合は特に).ともすれば「フッ化物塗ったから大丈夫」と勘違いしてしまう人もいると思います.

 フッ化物洗口液はどうでしょうか.毎日の歯磨きに加えてあえて自分で薬液の量を計り,うがいをしなくてはなりません.きっと「わたしは虫歯予防のためにこのフッ化物洗口液でうがいしているのだ・・・ブクブク」とうがい中の1分間に意識を向けてくれるでしょう.これは非常に大切なことなのです.患者さん自身がセルフケアを意識して,行動変容を起こしていることになりますから.

 スウェーデンの予防歯科では前項でも述べた通り,セルフケアが何よりも優先され重要度が高いわけです.また,歯科医院でプロフェッショナルケアを受ける際にも患者さん自身がう蝕予防に積極的で意識的に取り組んでいるか否かは,大きな差となって現れてくると考えています.

 

(3)1回あたりに口に含むフッ素量は歯磨剤と比較して3~6倍多いから

 フッ化物洗口液の勘違いの多くは表示されているフッ化物濃度が低いことにあります.現在,日本では歯科医院で取り扱いが出来る(あるいは調剤薬局で処方できる)フッ化物洗口液は上限が0.1%(450ppm)と定められており,ドラッグストアなどOTC(Over The Counter)で販売されるフッ化物濃度の上限は0.05%(225ppm)とされています.一方,フッ化物配合歯磨剤はフッ化物濃度が高い製品で1,450(1,500)ppmが上限として定められています.

 単純に3倍も薄いのだから,フッ化物洗口液はフッ化物配合歯磨剤よりも効果が低いなどと勘違いしないようにしなければなりません.1回あたり口に含む製剤量で比較する必要があります.成人の場合,歯ブラシにつけるフッ化物配合歯磨剤は0.5g~1.0gです(推奨量は2.0gですが実際はこのくらい).一方,フッ化物洗口液は成人の場合10g(10ml)を付属のカップで計測し使用します.単純に製剤量を比較してみるとおよそ10倍~20倍も洗口液のほうが1回あたりに口に含む製剤量が多いのです.

 また、製剤量から計算した1回に口に含まれるフッ素量は歯磨剤の0.73mg~1.5mgに対し洗口液は4.5mgです.フッ化物洗口液はフッ化物配合歯磨剤の3倍~6倍ものフッ素量を口に含んでうがいしているということになります.

 

(4)歯磨剤や塗布法に比べ長時間作用するから

 一般に,フッ化物応用をすると歯質や歯垢,口腔粘膜などに貯蔵されることがわかっています1).塗布法や歯磨剤で応用された場合,歯表層に保持されたフッ化物は脱灰抑制と再石灰化促進に利用されますが,短期間で唾液によって除去されます.フッ化物洗口液は塗布法や歯磨剤よりもフッ素濃度を長い時間上昇させることがわかっています2)

 私は日本の歯科医院でよく行われている綿球で9,000ppmのNaFをちょんちょんする綿球塗布法の効果に懐疑的です(もちろん高濃度/低濃度の機序の違いは理解しています).その理由は(1)平滑面への塗布は容易だが,小窩裂溝や隣接面などリスク面への塗布が困難だから (2)歯面が4分間薬液で湿潤状態でなくてはならない1)が,現実的には困難だからです.もちろん効果がないとは言いませんが、洗口液のほうが…とか,塗布するなら停滞性の高いバーニッシュのほうが…と考えるのです.

 以前,「〇〇市では市町村健診時にフッ素(!)の歯面塗布(綿球塗布法)を取り入れているからむし歯が減った」とベテラン歯科衛生士さんが言っていたのを耳にしたんです.小声で「えっと,それは事実ですか?」とつっこんでしまったですが「この私が市のう蝕を減少させた」と,信じて疑わない様子でした…

 さて,話を戻しますと…フッ化物洗口液の場合,歯や歯垢のほかに(約5%程度)粘膜に保持されるため,終了後2時間程度徐放(徐々に口腔内に放出される)されると考えられています.一般に,フッ化物洗口液は就寝前に使用します. 唾液分泌量が多いと希釈されたり嚥下回数が多くなるので唾液中に含まれるフッ化物濃度が減少してしまいます.就寝中は唾液分泌量が抑制され,ほとんど嚥下動作が起こらないことが研究で明らかになっています3).フッ化物洗口液を使用した臨床研究でも就寝前に洗口することで全唾液中フッ素濃度が高くなったと報告されています4).というわけで,できるだけフッ化物を口腔内に残留させるために就寝前に使用することが推奨されているのです.

 

(5)フッ化物配合歯磨剤だけでは足りないから

 2020年現在,フッ化物配合歯磨剤の市場占有率(シェア)は92%と記録されています5).2010年に90%になってから10年間継続して90%以上になっています.もちろん,フッ化物配合歯磨剤の恩恵によって過去,う蝕の抑制がみられたことに異論はありません.しかし,現実的にう蝕を(乱暴な言い方ですが)90%以上制御できていると言えるでしょうか?

 平成28年歯科疾患実態調査の結果6)では,前回(平成23年度)と比較して35歳以上の年齢層でう蝕が増加していることがわかっています. 92%の歯磨剤にフッ化物が配合されているにも関わらず,実質的にう蝕は制御できていない現在,より高いレベルでカリエスリスクに応じたう蝕予防法が求められていると言えると思います.

 フッ化物洗口の有効性については,国内外にものすごい数の論文が出ていますが,研究デザインが様々で単純比較はできません.フッ化物洗口のう蝕予防率はおおむね「30~80%のう蝕予防効果が得られている」とされていますので,フッ化物配合歯磨剤の30~40%,フッ化物塗布の20%や34~55%(乳歯)・22や28%(永久歯)などと比較するとう蝕予防効果が同程度かそれよりも高いことを示しています1)

 信頼性の高いコクランデータベースによるメタ解析でも,歯磨剤単独よりも歯磨剤にフッ化物洗口液を加えた方がう蝕予防効果が高いことが明らかになっています7).前述のとおりフッ化物配合歯磨剤の使用に加えられるべきフッ化物応用法は,プロフェッショナルケアのフッ化物塗布法よりもセルフケアによるフッ化物洗口液が優先なのだと考えています.

 

 

2.フッ化物洗口液使用の実際とエビデンス

 

(1)濃度

 現在,歯科医院で処方されるのは0.1%(450ppm),OTCで販売されるものは0.05%(225ppm)です.前述のとおりどの製品でも1日1回,就寝前に使用することになっています.さて,う蝕予防を成立させるために必要な濃度はどのくらいでしょうか?450ppmや225ppmで十分なのでしょうか?研究では既に,う蝕抑制には0.05%(226ppmF)が最低濃度として必要である8)と結論付けられていて,フッ化物を含まない洗口液や,100ppmのような低いフッ化物濃度の洗口液では,フッ化物配合歯磨剤に含まれるフッ化物濃度を「ウォッシュアウト」つまり洗い流してしまうことが指摘されています8)

 1分間洗口後の唾液中のフッ化物停滞量(AUC/薬物濃度)は明確に用量反応を示す9).と報告されています.よりう蝕予防効果を求めるのであれば,出来るだけフッ化物濃度の高いフッ化物洗口液(日本では0.1%NaF(450ppm)のもの)を選択するとよいと思います.ちなみにスウェーデンでは0.32%(1,450ppm)のNaF洗口液が(Brilliant Smile 0.32)が市販されています.

 ドラッグストアで購入できるフッ化物洗口液は0.05%(225ppm)と濃度が1/2になっていることにお気づきになると思います.基本的にはスイッチOTC(医師に処方してもらう「医療用医薬品」からドラッグストアで自分で選んで購入できる「要指導医薬品」「一般用医薬品」に変更になった商品のこと)製品であるから,同じ成分であるものの濃度だけが違うということになります.歯科医院専売品には価格がありませんが,患者さんが手に入れる際の価格はそれほど差があるわけではありません.

 

(2)製品によるpHの違い

 実際に私がOTCを含む国内流通10製品のpHを調べ,表示がなかった製品はメーカーに問い合わせたところ,意外なことにpHは統一された規格ではなく,バラバラでした.一番低いpHを持つ製品でpH5.0~5.6と弱酸性であり,一番高いpHを持つ製品でpH6.0~7.0と中性でした.

 海外の臨床研究で,酸性のAPFと中性のNaF洗口液を比較したところ,APFが中性のNaFよりもう蝕予防効果が高かったことが示されています10),また,日本の基礎研究でも中性のフッ化物洗口液(pH7.0)より酸性のフッ化物洗口液(pH5.0)の方がエナメル質粉末へのフッ素取り込み量が高いと報告されています11).臨床的にどのくらいの差が発生するかというのはわかりませんが,pHが低い製品の方が歯質への取り込みはよいだろうと考えています.

 

(3)剤型の違い (顆粒剤か液剤か)

 ミラノール®に代表される顆粒剤は歴史が古くコストが安いのですが,調液の手間や容器を洗ったりすることを考えると,個人使用の場合にはすでに液体でそのまま使用できるものをおすすめしたほうがよいと考えています.こうしたちょっとした手間を省き,患者さんに使ってもらえるようハードルを下げる工夫も大切だと思っています.

 

(4)開始年齢 (6歳未満へのフッ化物洗口液は本当に推奨されないのか?)

 WHOではフッ化物洗口液の全量を飲み込んでしまう可能性があるため,6歳未満の就学前児童のフッ化物洗口法は推奨されないとしています12).また,FDI(国際歯科連盟)も同様のステートメントを発表しています13)

 6歳未満のフッ化物洗口を推奨しないとする内容を紐解いてみると,必ずしも全地域に当てはまる内容ではないことがわかります.WHOのテクニカルレポートでは直接,具体的な科学的根拠が示されていませんが,このWHOレポートの引用元と思われる論文は米国アイオワ大学歯学部小児歯科学講座のWeiとKanellisによる論文14)で,フロリデーションが行われている地域で0.05%のNaF洗口液7mlの全量を毎日飲み込んだ場合,歯のフッ素症が誘因される可能性があると述べ,飲み込まないようにするべきとする内容でした.

 米国のように水道水フロリデーションや,錠剤や塩やガムなど他の方法(経路)でのフッ化物全身応用が行われていない日本において,同じことが言えるかどうかについて懐疑的な意見を持っています.また,全量を毎日飲みこんでしまうという特殊な条件は,もちろんあり得ない話ではありませんが,必ず起こるものとは言えないと考えています.

  水道水フロリデーションなどフッ素の全身応用が行われていないわが国で,WHOやFDIが推奨する6歳以上から洗口液を使用するようにしてしまうと,乳歯のう蝕予防はもちろんですが永久歯のう蝕予防にも遅きに失してしまう可能性があると考えています.

 複数の臨床研究に目を通しましたが,対象者(児童)が洗口液を全量飲み込んでしまったという報告を見つけることは出来ませんでした.また,フッ化物洗口液使用後のフッ素残留量に問題があったとする報告もありませんでした.さらにフッ化物洗口液により歯のフッ素症が発生したとする報告を見つけることもできませんでした.

 1996年に発表された口腔衛生学会のステートメント「就学前からのフッ化物洗口法に関する見解」では水道水フロリデーション他フッ化物の摂取が少ないわが国の実情を踏まえ,就学前からの一貫したフッ化物洗口を推奨しています15).また,同学会のガイドラインとも言える書籍では,4歳くらいからフッ化物洗口が開始できるとし,早めに開始することを推奨しています1)

 個人的に医学部附属病院と開業歯科での15年以上の臨床経験で,実際にフッ化物洗口液などフッ化物の局所応用で急性中毒はおろか,歯のフッ素症になったとする症例を経験したことはありません.水道水フロリデーション他全身応用が行われていないわが国においては,不用意な飲み込みを避けるよう適量(就学前5~7ml,小学生以上10ml)を使用すること.発達的にうがいが出来る4歳頃,そしてそれを確認してから出来るだけ早期にフッ化物洗口液を使用することが望ましいと考えられます.

 

(5)作用時間

 フッ化物洗口液をどのくらいの時間作用(うがい)させるべきか,ということについて質の高いエビデンスを見つけることができませんでした.臨床研究では,10秒よりも20秒のほうが高く,有意差は認められなかったが,20秒よりも30秒うがいのほうがよりフッ化物残留濃度が高かったとしています16).フッ化物洗口液を製造している国内メーカーは約30秒間のうがいとしています17,18,19)

 わが国のフッ化物応用のガイドラインと言える日本口腔衛生学会によるフッ化物応用実施マニュアルには個人応用・集団応用ともに「1分間を標準的な目標として,少なくとも30秒以上洗口する」とあります1)

 職場のクリニックでは1分間の砂時計とともにうがいすることをおすすめしています(販売もしています).実際,私の娘は3歳7か月の頃から砂時計を握りしめながらフッ化物洗口液でうがいしています.1分間でも長すぎるということはなさそうです.

 

(6)安全性(中毒量と歯のフッ素症)

 集団使用の場合でも個人使用の場合であっても,通常に使用されれば他のフッ化物製剤同様にフッ化物洗口液の安全性は非常に高いものです.本稿では残留フッ素濃度と中毒量,歯のフッ素症についてのデータをご紹介し,安全性について再度理解してもらいたいと考えています.

①うがい後のフッ素残留濃度

 日本人の未就学児を対象とした研究で7mlを1分間含嗽させたところフッ素口腔内残留量は年中児(4~5歳)クラスで0.21mg(12.4%),年長児(5~6歳)クラスで0.19mg(10.9%)だったとする報告があります20).また,日本人の小学3年生80名を対象とした研究で男子は0.31mg±0.12mg(6.21%),女子は0.42±0.12mg(8.48%)だったとする報告があります21).これは歯のフッ素症や中毒を引き起こしたりすることのない安全な残留フッ素量と考えられます.

 

②急性中毒量

 不快症状が発現するとされる2mg/kgで計算した場合,小児が5mlで使用,0.1%NaF洗口液の場合13回分を一気に飲むと発現(0.05%NaFなら26回分)という計算になり,医療処置が必要とされる5mg/kgで計算した場合,小児が5ml使用,0.1%NaF洗口液の場合33回分を一気に飲むと発現(0.05%NaFなら65回分)という計算になります.ボトルに口をつけてゴクゴク飲むようなことがない限り問題ありません(フッ化物洗口液ボトルの注ぎ口はそのように飲めない形状になっています).使用の都度,親が用量を計って使用させると安心です.

 

③歯のフッ素症(斑状歯)

 歯のフッ素症は生後20~30ヵ月の間にフッ化物に過剰にさらされた子供に起こりやすい永久歯列の審美的変化で,フッ化物の過剰曝露の臨界期は1歳から4歳の間と考えられています.さらに斑状歯は飲料水のフッ化物濃度が高い地域などフッ化物の全身応用で発症するものなので,局所応用のフッ化物洗口液で発症することは限りなくゼロに近いと考えてよいと考えています1).斑状歯について詳しく知りたい方はこちらの記事を合わせてご覧いただけたら嬉しいです.

 

 

3.FAQ(よくある質問)

 

Q日本ではどのようなフッ化物洗口液が販売されていますか?

A 週5回法(毎日)用の0.1%(450ppm)と週1回法用の0.2%(900ppm)が歯科医院で処方可能です.さらにスイッチOTCの0.05%(225ppm)がドラッグストアで購入することができます.調液済みの液剤の方が使用の際に簡便なので,昔ながらの顆粒から調液するタイプはあまり使用されなくなってきています.

 

Q日本人は海産物やお茶を多く摂取しているから総フッ素摂取量は多いのでは?歯磨剤を使っていればフッ化物洗口は不要ではないですか?

A 自然界の海産物やお茶に含まれるフッ素量は微々たるもので,管理された水道水フロリデーションと比較することは不適切です.また,日本人の総フッ素摂取量が明らかに高いことを裏付ける質の高いエビデンスはありません.

 コクランデータベースでは歯磨剤にフッ化物洗口を併用する有用性について明らかにしています7)ので,フッ化物配合歯磨剤に加えてフッ化物洗口液を使用することは大切です.

 

Q現在,スウェーデンで洗口液はどのように推奨されていますか?また,どのような濃度のフッ化物洗口液が市販されていますか?

A 6歳~12歳は0.05% (225ppm),12歳以上は0.2%(900ppm)の洗口液が推奨されています.0.05%(225ppm)から0.32%(1,450ppm)のNaF洗口液が(Brilliant Smile 0.32)22)が市販されています.

 

Qリステリンはう蝕予防になりませんか?またフッ化物洗口液とどのように使い分けたらよいですか?

A リステリンを使用したところ歯垢中のS.mutansは75.4%減少し,唾液中のS.mutansは39.2%減少したと報告があります23),しかし,フッ化物が未配合のため,宿主(歯質)に対しての作用がありません.フッ化物が配合されていないリステリンを使用することでせっかくフッ化物配合歯磨剤で供給されたフッ化物がWashoutされてしまう8)ので,どうしてもフッ化物が未配合の洗口液を使用したい場合はフッ化物配合歯磨剤の前に使用するとよいかもしれません.

 

Q大人でもフッ化物洗口は有効ですか?

A 成人になって永久歯列になると隣接面う蝕や根面う蝕が発生しやすくなります.また,修復物の二次う蝕も増加します.フッ化物洗口液はこれらのう蝕に有効ですので,成人でも実施することがおすすめです24)

 

Q含嗽後,口をゆすいでしまった場合のフッ素残留量のデータはありますか?

A 小学校児童のデータでフッ素洗口液(500ppm)洗口後男子の残留量0.31mg(6.21%)が水でゆすぐと0.16mg(3.13%)に,同女子が残留量0.42mg(8.48%)が水でゆすぐと0.27mg(5.46%)を示し,概ね1/2~2/3程度になってしまうというデータがあります21)

 

Q根面う蝕にも有効ですか?

A  0.05%NaFを4年間使用したケースでは歯根面の初期う蝕を有意に改善させたことが報告されています25)一方,0.05%NaFを1年間使用したケースで根面う蝕に対する予防効果に統計学的な有意差はなかったと報告されています26)東京歯科大の基礎研究ではエナメル質より2倍歯根面へのuptake(取り込み)が大きく根面う蝕への予防効果が期待できるとされていました27)

 

Qスウェーデンではなぜフッ化物の集団洗口が行われなくなっているのですか?

A  スウェーデンでは2000年頃まで通称「フッ素おばさん」が毎週,小学校にやってきて歯磨きを教えてくれたり,フッ化物集団洗口を実施していました.

 歯科先進国スウェーデンでは,う蝕の減少・フッ化物入り歯磨剤の普及など時代背景の変化によりフッ化物集団洗口などの公衆衛生的応用からセルフケア・歯科医院での個人アプローチへ変わっています.現在,世界のカリオロジーはポピュレーションストラテジーからパーソナル(ハイリスク)ストラテジーに変化しています.効果がないとはいいませんが,カリエスリスクを無視したフッ化物集団応用はコスト・ベネフィットの点でもよくありません(日本では忘れられがちですが,製剤費用だけではなくプログラムに必要な人的なコスト(見えない労務)も忘れてはいけません).

 日本では集団でフッ化物洗口を実施している地方自治体が未だ存在するようですが,世界的(特に歯科先進国)に見ると個々のカリエスリスクを無視した集団フッ化物洗口は過去のものになりつつあります.

 

Qフッ化物洗口液の味が嫌だと言われてしまいました.

A  製品によって違う香味がつけられています.勤務先のクリニックでは2種類の洗口液を採用しています.使用しないことでのデメリットが大きいため「味が嫌だからフッ化物洗口液を使用しない」ということはなくすべきと考えています.

 

Qどのくらいの時間,口腔内にフッ化物は残るのですか?

A  フッ化物洗口後の唾液中の平均NaF濃度は平均2時間でベースラインまで戻ったと報告があります(ちなみにバーニッシュは平均24時間)28)

 

Q 1日2回洗口してもよいのですか?

A  0.05%NaF洗口液を用いて1日1回と1日2回で比較した研究で,1日2回のほうが再石灰化が促されたと報告があります29).ただ,あえてこれをやるかどうかは・・・

 

 

4.あとがき

 日本ではまだまだ馴染みがないフッ化物洗口液の個人使用ですが,歯科医院で実施するフッ化物塗布よりも優先度が高いと考えています.日本の歯科医院のWebページではよく「定期検診で予防歯科」「PMTCで予防歯科」「フッ素(!)塗布で予防歯科」なんてキャッチコピーを耳にします.しかし,ダン先生の言葉にもある通り,患者さんの歯は患者さん自身で管理しなければならず「歯科医院で管理」なんて変だと思うのです.

 もちろん,歯科医院での刷掃指導やシーラントなどの予防処置は有効ですし,治療が必要な場合は治療自体が予防処置に含まれることもあるでしょう.でもそれは予防医療3段階の2次予防.予防歯科の土台となるのは1次予防すなわち「セルフケア」だと思うのです.

 今回はフッ化物応用法の中のフッ化物洗口を取り上げて解説していきました.フッ化物洗口液,いいかも!と思っていただけたでしょうか?ご意見・ご感想をお待ちしております.

 

 

5. 参考文献

 

1) 日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会 編  う蝕予防の実際フッ化物局所応用実施マニュアル 社会保険研究所

2) Gabre P, Birkhed D, Gahnberg L. Fluoride retention of a mucosa adhesive paste compared with other home-care fluoride products. Caries Res. 2008;42(4):240-6.

3)  Lichter I, Muir RC. The pattern of swallowing during sleep. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1975 Apr;38(4):427-32.

4) 孫 泰一 フッ化ナトリウム溶液洗口後における口腔内フッ素濃度の部位特異性 小児歯科学雑誌, 2003, 41 巻, 4 号, p. 710-718

5) 8020推進財団 フッ化物配合歯磨剤の国内市場占有率(シェア)の推移https://www.8020zaidan.or.jp/8020/dtl_0000_178.html (Retrieved on novenber 5, 2022)

6) 厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-28.html (Retrieved on novenber 5, 2022)

7) Marinho VC, Higgins JP, Sheiham A, Logan S. Combinations of topical fluoride (toothpastes, mouthrinses, gels, varnishes) versus single topical fluoride for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database Syst Rev. 2004;2004(1):CD002781.

8) Mystikos C, Yoshino T, Ramberg P, Birkhed D. Effect of post-brushing mouthrinse solutions on salivary fluoride retention. Swed Dent J. 2011;35(1):17-24.

9)Larsson K, Stime A, Hansen L, Birkhed D, Ericson D. Salivary fluoride concentration and retention after rinsing with 0.05 and 0.2% sodium fluoride (NaF) compared with a new high F rinse containing 0.32% NaF. Acta Odontol Scand. 2020;78(8):609-613.

10) Aasenden R, DePaola PF, Brudevold F. Effects of daily rinsing and ingestion of fluoride solutions upon dental caries and enamel fluoride. Arch Oral Biol. 1972 Dec;17(12):1705-14.

11) pHおよび濃度の異なるフッ化物洗口液のエナメル質におよぼす影響 口腔衛生学会雑誌 34 (5), 548-555, 1984

12) Fluorides and oral health. Report of a WHO Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use. World Health Organ Tech Rep Ser. 1994;846:1-37.

13) FDI World Dental Federation. Position statement on fluorides and dental caries. FDI World. 1995 Sep-Oct;4(5):7-8, 10.

14) Wei SH, Kanellis MJ. Fluoride retention after sodium fluoride mouthrinsing by preschool children. J Am Dent Assoc. 1983 May;106(5):626-9.

15) 口腔衛生学会フッ化物応用研究委員会「就学前からのフッ化物洗口法に関する見解」口腔衛生学会誌46, 116-118, 1996

16) Adachi K, Nakagaki H, Tsuboi S, Maruyama S, Goshima M, Shibata T, Mukai M, Robinson C, Mariano RB. Intra-oral fluoride retention 3 minutes after fluoride mouthrinsing in 4- to 5-year-old children: effects of fluoride concentration and rinsing time. Caries Res. 2005 Jan-Feb;39(1):48-51.

17) サンスター バトラーF洗口液0.1% https://www.club-sunstar-pro.jp/product/detail/130 (Retrieved on novenber 5, 2022)

18) ライオン フッ化ナトリウム洗口液0.1%【ライオン】 https://www.lion-dent.com/client/products/basic/checkupfukka.htm (Retrieved on novenber 5, 2022)

19) ビーブランド フッ化ナトリウム洗口液0.1%「ビーブランド」 https://bee.co.jp/product/single.php?p=86 (Retrieved on novenber 5, 2022)

20) 佐久間 汐子, 小林 清吾, 矢野 正敏, 池田 恵, 保育園児におけるフッ化物洗口後の口腔内残留フッ素量, 口腔衛生学会雑誌, 1996, 46 巻, 2 号, p. 212-214

21) 可児 瑞夫, 可児 徳子, 富松 早苗, 新海 研志, 山村 利貞フッ化物洗口法に伴う洗口液中フッ素の口腔内残留量について, 口腔衛生学会雑誌, 1976-1977, 26 巻, 4 号, p. 281-285

22) Brilliantsmile o.32 MAXIMUM FLOURIDE https://www.brilliantsmile.se/produktserier/o32-maximum-fluoride  (Retrieved on novenber 5, 2022)

23) Fine DH, Furgang D, Barnett ML, Drew C, Steinberg L, Charles CH, Vincent JW. Effect of an essential oil-containing antiseptic mouthrinse on plaque and salivary Streptococcus mutans levels. J Clin Periodontol. 2000 Mar;27(3):157-61.

24)郡司島 由香 成人におけるフッ化物応用による齲蝕予防効果 口腔衛生学会雑誌, 1997, 47 巻, 3 号, p. 281-291,

25) Ripa LW, Leske GS, Forte F, Varma A. Effect of a 0.05% neutral NaF mouthrinse on coronal and root caries of adults. Gerodontology. 1987 Winter;6(4):131-6.

26) Wallace MC, Retief DH, Bradley EL. The 48-month increment of root caries in an urban population of older adults participating in a preventive dental program. J Public Health Dent. 1993 Summer;53(3):133-7.

27) 古賀 寛, 眞木 吉信, 松久保 隆, 高江洲 義矩, 市販フッ化物洗口液作用後のエナメル質および歯根面へのFluoride Uptakeのin vitroにおける検討, 口腔衛生学会雑誌, 2002, 52 巻, 1 号, p. 28-35

28) Eakle WS, Featherstone JD, Weintraub JA, Shain SG, Gansky SA. Salivary fluoride levels following application of fluoride varnish or fluoride rinse. Community Dent Oral Epidemiol. 2004 Dec;32(6):462-9.

29) Songsiripradubboon S, Hamba H, Trairatvorakul C, Tagami J. Sodium fluoride mouthrinse used twice daily increased incipient caries lesion remineralization in an in situ model. J Dent. 2014 Mar;42(3):271-8.

 

 

6.おすすめ

 

サンスターのOTCフッ化物洗口液です.

 

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こちらの洋梨味は0.1%のバトラーF洗口液と同じ味です.

 

ライオンのOTCフッ化物洗口液です.

 

以前のマニュアル3冊が1冊にまとまったフッ化物応用マニュアルです.
高い本ではないですし,一人一冊持っていてもよいと思います.

 

砂時計(1分)です.探せばいろんなのがあります.
目的に合わせてお好きなのをどうぞ.

 

PHOTO:Malmo