【考察】スウェーデンの歯科受診は何歳まで無料なの? ~スウェーデンの歯科医療給付制度について~

投稿者: | 2021年7月10日
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 今回はスウェーデンの歯科における医療給付制度についてスウェーデン社会保険庁FörsäkringskassanのWebページ1)を見ながら、スウェーデンの医療給付制度を勉強してみたいと思います。なお、本記事は2021年7月現在の本ブログの内容に合わせたFörsäkringskassanのWebページの抜粋・翻訳です。実際にスウェーデンの歯科医療機関を受診する場合は公式ページから最新の情報をご覧ください。

 現在、日本では地方自治体の医療費援助によって概ね18歳まで無料で医療を受けられます(地方自治体によって異なります)。一方、スウェーデンでは23歳末まで無料で歯科治療を受けられます(2021年7月現在)。スウェーデンでは、その後も非常に手厚い医療給付制度によって国民の負担が少なくなっています。スウェーデンに亡命した人や非正規滞在者であるとしても同様(まったく同じ内容ではない)です。

 2021年6月末、日本は2020年度の税収が60.8兆円を超えると発表され、過去最高の税収を記録しています。しかし、その一方で医療費の削減が叫ばれています。北欧諸国は一般的に税金が高額ですが、医療給付を含むその政策に多くの人が満足であると回答しています。スウェーデンと同様に高齢化が進む日本。今回はスウェーデンの医療給付制度を学び、今後の日本の医療について考えるよい機会になればいいなと考えています。

 

1.国民歯科医療費補助金

 国民歯科医療費補助金は、(1)一般歯科医療費・(2)特別歯科医療費・(3)高額医療費保護費の3つで構成されています。スウェーデンの歯科医療費は23歳まで無料ですが、24歳からはこの制度によって補助金が支給されるというわけです。

 

(1)一般歯科医療費

対象となる人
 ・24歳以上であること
 ・スウェーデンの被保険者であること
 ・スウェーデンに住んでいるか、働いていること
  スウェーデン以外の在住者でも、場合により一般歯科医療費を受け取ることができる。

対象となる歯科治療
 診察、予防処置、その他国民歯科医療費補助金の対象となるすべての歯科治療、定期歯科診療の契約の一部にも利用できる。

利用方法
 国の歯科医療費助成制度に加盟している歯科医師または歯科衛生士のもとで治療を受ける必要がある。加盟している歯科医院のITシステムはFörsäkringskassanに接続されており、歯科医・歯科衛生士は、歯科医療費助成金を利用できるかを確認することが可能。

支給金額
 毎年7月1日に、一般歯科医療費が支給される。受け取る金額は年齢によって異なり以下の通りとなる。
 ・24歳~29歳  :600SEK/年
 ・30歳~64歳  :300SEK/年
 ・65歳~   :600SEK/年
 ※本医療費は翌年に繰り越して利用することも可能

(2)特別歯科医療費

歯の健康に悪影響を及ぼす可能性のある特定の病気や障害を持っている場合に受けられる補助金。

対象となる人
 ・24歳以上であること
 ・スウェーデンの被保険者であること
 ・スウェーデンに住んでいるか、働いていること
  スウェーデン以外の在住者でも、場合により特別歯科医療費を受けられる場合がある。

本医療費の支給対象疾患
 ・薬剤性のドライマウス
 ・耳、鼻、口、頸部に放射線治療を受けたことによるドライマウス
 ・シェーグレン(Sjögren)症候群
 ・酸素や栄養剤による治療を受けているCOPD
 ・嚢胞性線維症(CF)
 ・潰瘍性大腸炎
 ・クローン病
 ・腸管障害
 ・酸蝕症および神経性食欲不振症、神経性過食症、胃食道逆流症
 ・治療困難な糖尿病
 ・透析治療中
 ・薬剤の使用により免疫力が低下している方
 ・臓器移植を受けられた方

対象となる歯科治療
 歯科検診や歯のクリーニングなど予防的な歯科処置に使用できる。また歯科治療の一部として使用することも可能。

利用方法
 歯科医療特別手当を利用するためには、国の歯科医療費助成制度に加盟している歯科医院や歯科衛生士に通う必要がある。歯科医師または歯科衛生士が、手当を受ける資格があると判断した場合、請求から差し引かれる。

支給金額
年に2回(1/1、7/1)、600SEKずつ支給される。
1回の予約で600SEK全額を使用する必要はないが、6ヶ月間で使用する必要がある。

(3) 高額医療費保護費

 歯科治療費が高額になる場合の制度。歯科治療費が一定額を超えた場合、その一部を自己負担するだけで済むという制度。

対象となる人
 ・24歳以上
 ・スウェーデンの被保険者
 ・スウェーデン勤務、在住者
  スウェーデン以外の国の在住者でも、場合により高額医療費保護費を受けることができる。

対象となる歯科治療
 ・ホワイトニングや審美治療、定期的な歯科治療の契約を除くほとんどの歯科治療

高額補償を利用する場合
 ・国民歯科医療費補助金に加盟している歯科医師または歯科衛生士への通院が対象となる。
 ・歯科医師または歯科衛生士が請求額から控除するため補償の申請は不要
 ・歯科医、歯科衛生士によって治療費が異なるが、TLVが定める参考(基準)価格を超える費用については、高額療養費制度を利用できない。

高額補償
 1年間に 3,000SEKを超えた場合、50%を支払う。
 1年間に15,000SEKを超えた場合、15%を支払う。

 

2.地域行政の歯科医療費補助

 特定の病気や障害・介護が必要な場合、地域行政や地域から歯科医療費の補助を受ける。

 

(1) 慢性疾患や永久的な障害がある場合の補助金

 慢性疾患や障害のために、口腔衛生のケアに大きな支障がある場合、または歯科治療を受けている場合の補助金。

対象となる疾患
 ・重度の精神障害
 ・パーキンソン病
 ・多発性硬化症(MS)
 ・脳性小児麻痺(CP)
 ・リウマチ性関節炎
 ・全身性エリテマトーデス(SLE)
 ・強皮症(全身性硬化症)
 ・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
 ・口腔顔面障害(口腔内およびその周辺の奇形や慢性疾患)
 ・脳梗塞または脳卒中6ヶ月経過した後も口腔衛生の管理や歯科治療を受けることが困難な症状がある場合
 ・希少疾病

歯科医療の受診料は通常の医療機関の受診料と同じで、他の健康・医療の高額療養費の保護対象に含まれる。クラウンやブリッジなどの固定式補綴物は補助の対象外となる。

 

(2) 病気の治療の一環として行われる歯科治療に対する補助金

対象となる疾患
 ・顎部および顔面の先天性奇形の治療
 ・疾患による顎部や顔面の損傷の治療
 ・てんかん発作時に発生した歯の損傷の治療
 ・感染予防が必要な外科的処置または医療行為に関連して
 ・病気、投薬、または一般的に免疫力が低下していることにより、口腔粘膜に変化が生じている場合
 ・病気が口腔や歯の健康に影響していると思われる検査を受けている場合
 ・耳、鼻、口、喉の放射線治療を受けている場合
 ・顔や顎の部分に慢性的な強い痛みがある場合
 ・深刻な睡眠時無呼吸症候群の診査および治療を受けている場合
 ・摂食障害や逆流性食道炎によって歯が酸蝕し医学的なリハビリを受けている場合。

病気の治療の一環である歯科治療を期間限定で受けることができる。歯科治療にかかる費用は通常の医療機関への受診と同じで、その他の健康・医療に関する高額療養費の保障に含まれる。

(3) 歯医者に極度の恐怖心を抱いている場合の補助金

 歯科医に極度の恐怖心を抱き、長年にわたって歯科治療を避けてきた方を対象とした補助金。恐怖心を解消するための治療+歯科治療に対して給付される(歯科医師と精神医療専門家の診断によって歯科恐怖症と診断された場合に限られる)。

 

(4) アレルギー体質や過敏症の方の歯の詰め物の交換に対する補助金

 アレルギーや過敏症の方が、詰め物やクラウンの材料を交換する際に、歯科医療費助成を受けることができる。

 

(5) 医療リハビリの一環として歯の詰め物を交換する際の補助金

 慢性疾患の症状がある場合、医療リハビリテーションの一環として、歯の詰め物を交換するための歯科医療費の補助を受けることができる。

 

(6) 口腔、顎、顔面の外科手術に対する補助金
 口腔・顎顔面領域の手術や治療が必要な場合の補助金。

 

 

まとめ

(1) 23歳まで&亡命・非正規滞在者まで医療費無料のスウェーデン。

 スウェーデンでは年々医療費が無料になる年齢が上がっていって2021年7月現在では23歳まで無料になっています。日本では地方自治体によりますが、概ね18歳までが医療費無料です。医療費が無料になる若年人口が少ないからできること?いいえ、スウェーデンと日本の若年人口(15歳未満人口)は対全人口比率で比較して17.3%と13.0%2)です(2015年調査時)。スウェーデンの方が割合が多いくらいです。消費税等の税額は確かにスウェーデンの方が高いのですが、長くなるので税金の話題はまた他の機会に・・・

 

(2) ほとんどの歯科医院が社会保険庁のデータベースと繋がっている。

 スウェーデンのほとんどの歯科医院のITシステムがスウェーデン社会保険庁Försäkringskassanのデータベースに接続されていて、患者が受診したその場で、どの給付金・補助金が受けられるかを調べることができます。そしてその決定には歯科衛生士・歯科医師の裁量権が大きいのも特徴です。例えば日本では地方自治体から配布される紙の医療券や受給券等を保険証とともに医療機関の受付に提出します。日本の歯科医療機関には、そもそもどの給付金・補助金によって患者さんの負担が少なくなるかなんて歯科衛生士・歯科医師には選択肢も決定権もありません。

 

(3)多くの疾病で歯科医療費まで給付・補助金の対象となる。

 実際に、外分泌線の機能低下が主症状となるシェーグレン症候群を持つ患者さんで比較してみます。スウェーデンではシェーグレン症候群の診断がある場合、特別歯科医療費として年間1,200SEK(15,420円(7/10現在))が歯科診療に対し支給されます。一方、日本でシェーグレン症候群の特定疾患医療費助成(平成27年指定)を受けようとする場合、診断基準とともに重症度分類において難病指定医が難病指定しなくてはなりません。難病指定はハードルが高く現在ほとんどのシェーグレン症候群の患者さんは難病指定を受けていません。日本ではシェーグレン症候群があって非常にう蝕罹患リスクが高い患者さんであっても一般の方と同様に医療費を払って歯科受診をしているのです。

 

 今回は前回の歯科医療費(診療報酬)の違いに続き、スウェーデンの歯科医療給付制度についてみていきました。色々と考えるところがありました。スウェーデン語から英語に、英語から日本語に拙訳していますので、誤り等がありましたらご指摘いただけますと幸いです。

参考文献

1) スウェーデン社会保険庁Försäkringskassan https://www.forsakringskassan.se/
 (Retrieved on July 10,2021)

2)独立行政法人労働政策研究・研修機構 データブック国際労働比較2019 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2019/02/d2019_T2-03.pdf
 (Retrieved on July 10,2021)

 

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