【考察】withコロナ時代のマスク選び ~歯科医療従事者はどのマスクを選ぶべきか~

投稿者: | 2021年8月27日
LINEで送る
Pocket

 2019年に発生した新型コロナウイルスは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)として2021年8月現在,変異株であるデルタ株,ラムダ株を含め全世界で猛威をふるい続けています.感染経路は飛沫感染、接触感染とされ,換気の悪い室内などでは空気中を浮遊する微粒子による「マイクロ飛沫感染」と呼ばれる空気感染に近い感染経路をとることも指摘されています.2020年10月,豊橋技術科学大学がスーパーコンピューター富岳によるシュミレーションでサージカルマスクを着用すると(マスク着用なし時の飛沫量を100%とした場合)吸い込み飛沫を30%,吐き出し飛沫を20%に減少させることができる.と発表したのも記憶に新しいかと思います1).医療従事者のみならず,一般の方であっても新型コロナウイルス感染症の防護器具としてマスクの着用が求められています.今回,ウイルスを含んだエアロゾルが発生しやすい歯科医療機関でのマスク選びについて,マスクの基本的な知識とともに考えてみたいと思います.

 なお,このページの情報は2021年8月28日原稿作成時の情報を基に作成されています.日々更新される情報をご参照ください.また,間違いや改定等の情報があればご指摘いただけると幸いです.

 

1.マスクの性能指標

 一般的にマスクのフィルター性能を測定する指標として以下の項目が試験されています.医療用マスクではなく防じんマスクの場合,主に微粒子ろ過効率PFE(%)によって測定されます.医療用として認可を得るためにはASTM(米国試験材料協会)で規定されるような細菌ろ過効率BFE(%)による性能評価が必要となります.

(1) 「BFE」細菌ろ過効率(%) Bacterial Filtration Efficiency

 圧縮空気によってエアロゾル化された細菌を含む平均約3μmの粒子のろ過率を測定したものです.ASTMで規定される医療マスクでは95%以上の性能が求められます.

(2) 「PFE」微粒子ろ過効率(%) Particle Filtration Efficiency

 平均約0.1μmの粒子のろ過率を測定したものです.数値が高い方がフィルター性能が高いことになります.

(3)「△P」空気交換圧(mmH2O/cm2)Air Exchange Pressure

 一定の空気をマスクに通し,マスクの前側と後側の圧力差を測定したものです.測定値(圧力)が低い方が呼吸がしやすいと言うことになります.

(4)「FR」血液不浸透性(mmHg) Fluid Resistant

  液体(血液)が飛散した場合,どの程度の圧力にまで耐えうるかを示します.高圧力に耐えうるほうが液体(血液)を通しにくいということになります.

 

2.防じんマスクの国際規格(一部)

 工事現場等で用いられる防じんマスクの場合,以下の規格が用いられています.なお,使い捨て式ではなく交換式のもの,試験粒子が液体のものや,排気弁付きの規格は省略しています.

規格

EN

ASTM

JIS

欧州

米国

日本

試験粒子

NaCl

NaCl

NaCl

粒子径

0.6μm

0.075+0.02μm

0.06~0.10μm

捕集効率試験流量

95 L/min.

85L/min.

85 L/min.

微粒子ろ過率 (PFE)

FFP1:80%以上

FFP2:94%以上

FFP3:99%以上

N95:95%以上

N99:99%以上

N100:99.97%以上

DS1:80%以上

DS2:95%以上

DS3:99.9%以上

吸気抵抗

30L/min.
 FFP1:60Pa以下
 FFP2:70Pa以下
 FFP3:100Pa以下
95L/min.
 FFP1:60Pa以下
 FFP2:70Pa以下
 FFP3:100Pa以下

85L/min.

 N95:343Pa以下
 N99:343Pa以下
 N100:343Pa以下

40L/min.

 DS1:45Pa以下
 DS2:50Pa以下
 DS3:100Pa以下

排気抵抗

160L/min.
 FFP1S:300Pa以下
 FFP2S:300Pa以下
 FFP3S:300Pa以下

 85L/min.
 N95:245Pa以下
 N99:245Pa以下
 N100:245Pa以下

40L/min.
 DS1:45Pa以下
 DS2:50Pa以下
 DS3:100Pa以下

 N95マスクと同等のフィルター性能を持つものは欧州規格ではFFP2,日本の規格ではDS2ということが分かります.DS2とはDisposable(使い捨て)+Solid(試験粒子が個体)の区分2です.

 ただ,2000年の労働安全衛生法改正前の95%は新規格の80%に該当し,FFP1やDS1でも実使用での捕集効率はラボでの捕集効率より格段に高い場合が多い2)とのことですので,FFP1やDS1であっても,すごく性能に差があるというわけではなさそうです.

 

3.医療用マスクの国際規格

 日本では,以前は医療用マスクの規格がありませんでしたが,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて2021年6月16日に規定されました.米国のASTM規格,欧州のEN規格とともに規格を確認してみたいと思います.

(1) 米国

 ASTM(米国試験材料協会)によってマスクの性能条件が定められています.

ASTM F2100-19

Lv.1

Lv.2

Lv.3

BFE (%)

≧ 95

≧ 98

≧ 98

PFE (%)

≧ 95

≧ 98

≧ 98

△P

< 5.0

< 6.0

< 6.0

FR(mmHg)

80

120

160

 

(2) 欧州

 EN規格によってマスクの性能条件が定められています.

CE EN149

タイプⅠ

タイプⅡ

タイプⅡR

BFE (%)

≧95

≧98

≧98

PFE (%)

≧95

≧98

≧98

△P(Pa/cm2)

<4.0

<5.0

<5.0

FR(mmHg)

80

120

160

上記の他,耐飛沫性kPa,微生物洗浄度(cfu/g)が定められています.

 

(3)日本

 日本産業規格(JIS).医療用及び一般用のJIS T9001と,感染対策医療用のJIS T9002が定められています.

JIS T9001

医療用

一般用

クラスⅠ

クラスⅡ

クラスⅢ

 

BFE (%)

≧95

≧98

≧98

≧95

PFE (%)

≧95

≧98

≧98

≧95

△P(Pa/cm2)

<60

<60

<60

<60

FR(kPa)

10.6

16.0

21.3

上記の他,VFE(%),遊離ホルムアルデヒド (μg/g)等が定められています.

 感染対策医療用(JIS T9002):新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染対策に従事する医療従事者が使用するマスクについて規定されています.人工血液によるバリア性等の有無でタイプⅠとⅡに分類し,性能要件とその試験法に加え,安全・衛生面も考慮して規定されています.

 

 

4.医療用に用いられるマスクの種類

 

(1)サージカルマスク

 サージカルマスクとは主に医療用に用いられるディスポーザブルのマスクで,医療用と定義するための厳密な条件や定義があるわけではありません.いわゆるホームセンターやドラッグストアで購入することができる不織布付きのディスポーザブルマスクがサージカルマスクです.現在,米国では,医療用マスクはASTM(米国試験材料協会)によってマスクの性能条件が定められており,BFEが95%以上のものを医療用として認可しています.

 サージカルマスクは主に3層のものが販売されています(ほかに2層や4層のものがあります).表裏があり,逆に装着してしまうと本来の性能を発揮することができません.3層の不織布のうち表面の層(外側)には撥水性を持たせ,飛沫等の水分の浸透を防止します.医療を意識して製品化されたマスクは緑色や青色で着色されていますが,手術着と同様に血液の赤色と補色にするためと考えられます.中間層にはメルトブローン不織布という極細繊維のフィルターが用いられ,フィルターのろ過性能を高めています.内側の肌に触れる層は柔らかく吸水性で装着感を高める機能を持たせています.

 どの国で製造されたものであっても米国で流通させる場合,米国食品医薬品局(FDA)の検査をクリアする必要があります.また,EU圏内で流通させる場合,CEマークの検査をクリアする必要があります.いずれの場合であってもASTM F 2100-2019の定める基準により厳しく試験されパスする必要があります.

 

(2)N95レスピレーター

 N95レスピレーター(Particulate Respirator Type N95)は,アメリカ合衆国労働安全衛生研究所(NIOSH)のN95規格をクリアし,認可された微粒子用マスクのことで,N95とは厳密にはフィルター自体の性能を指しますが,N95マスクとして認可を得る場合には様々な試験をパスしなくてはなりません.NIOSHは認可したN95マスク製品をリスト化して公開3)しています.マスクではなく「呼吸器防護具」として「レスピレーター」と呼ばれ,密着性を高めるためにカップ型もしくは折りたたむことが出来る製品は口ばしのような形をしています.

 N95マスクは1970年代に米国鉱山局(U.S. Bureau of Mines)とCDCの下部組織である米国労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health/NIOSH)によって開発された鉱山の粉塵対策の使い捨てマスクで,3Mによって1972年に製品化されたもので現在の製品に近いものは1995年に開発されたものです4)

 N95のNとは「not resistant to oil」つまり「耐油性がない」モデルで,他にR(Resistant to oil/耐油性あり)とP(Oil Proof/防油性あり)が存在します.医療機関では耐油性が必要ないので,N95が使用されています.N95マスクはPFE試験95%以上という厳しい規格基準をクリアしたものです.その厳しい基準から結核をはじめ医療現場でも用いられるようになりました.国立感染症研究所と国立国際医療研究センターのCOVID-19に対する感染管理の指針5)では,エアロゾルが発生する可能性のある手技(例えば気道吸引,気管内挿管,下気道検体採取)を実施する場合には,N95マスク装着が推奨されています.つまり様々な場面でエアロゾルが発生する歯科医療の現場でもN95マスクの装着が望ましいと考えられます.

 N95マスクを正しく着用することは基本中の基本であり,フィットテストを実施しなかったり正しく着用しないでN95マスクを着用してもマスクの本来の性能を発揮することはできません.N95マスクの正しい着用方法やフィットテストの仕方は製造メーカーからWebサイト等で動画が公開されていますのでご参照ください.

 

(3)DS2マスク

 DS2マスクは日本の厚生労働省が定めた国家検定規格の防じんマスクです.日本で用いられる産業用途の防じんマスクは労働安全衛生法によって厳しく管理されています.つまり日本で「防じんマスクとして」使用される場合にはNIOSH規格(N95等)ではなく日本の国家検定規格(DS2等)による検定を受けなければなりません.DS2マスクはN95マスクと同等のフィルター性能を有し医療現場でも用いられています.捕集効率(負荷試験)、吸気抵抗、排気抵抗他さまざまな規格値が定められています.

 労働安全衛生法上の防じんマスクとして認可を受けた製品は検定を実施している公益社団法人産業安全技術協会がWebで公開しています.実際にいくつかDS2マスクを購入してみましたがオーバーヘッド型で(イヤーループ型は認められない)N95同様にしっかり作られている印象です.

 

(4)KN95マスク

 KN95は中国応急管理部(旧中国国家労働安全生産監督管理総局)が検査をし,米国におけるN95規格と同様の基準とされるGB2626-2006規格をクリアしたマスクです.そのうちGB19083‐2010という規格番号がついているものが医療用規格とされています.

 米国では,当初,FDAがKN95マスクの有効性を認めていませんでした.しかし,2020年のCOVID19の感染拡大で,米国疾病対策センター(CDC)が,N95の供給が不足した場合,KN95が代用品になるという見解を示しました.それに続き,米国食品医薬品局(FDA)でも,一定の基準を満たせば使用を承認する方針を明らかにして,医療現場でも使われるようになりました.これに続き2020年4月10日には,日本の厚生労働省でも「KN95などの医療用マスクのうち,米国 FDA で緊急使用承認(EUA)が与えられているものについては,N95に相当するものとして取り扱うこと」としています6).KN95マスクの粗悪品・偽造問題についてはQ&Aにまとめましたのでご覧ください.

 

(5)KF94マスク

 KF94は,韓国のMinistry of Food and Drug Safety(食品医薬品安全処)によって認証されるN95マスク相当の規格です.他マスク同様に0.04μm〜1,0μmのNaCl粒子を用いて試験します.KF94の認証を得る場合には94%以上の捕集率が必要です.毎年大陸から流入するPM2.5に悩まされる韓国では高機能マスクの開発に力を入れており,KF94マスクは概ねN95マスクと同等の性能を持つとされています.カップ型ではなく折りたたみ式で,開くとくちばしのような形の立体になるのが特徴です.防じん用とか医療用というわけではなく一般向けの高機能マスクという印象です.

 

5.まとめ ~歯科医療従事者に必要なマスクは?~

 今回,多くの参考文献やWebページを参照し,様々なところからDS2規格品,N95規格品,KN95規格品,KF94規格品マスクを入手して比較してみました.さて,歯科医療従事者はどんなマスクを着用してwithコロナ時代を生きていくべきなのでしょうか.

 

(1)歯科医療従事者はN95やDS2などの高規格マスクを着用するべき

 患者の体内で増殖したウイルスは口腔内,特に唾液に多く含まれ7),歯科臨床ではタービンや超音波スケーラーから血液を含むエアロゾルが発生すると言われています8).歯科診療をモデルにした実験を行った研究では,直径の大きな飛沫は歯科ユニットの頭部半径2mに短時間に落下するが,粒子の小さなエアロゾルや周囲の水分を失った飛沫核は診療室の空間に浮遊することが指摘されています9).これらの報告から,歯科医療従事者のうち歯科医師と歯科衛生士,歯科助手はできるだけ高規格なマスクを使用することが求められます.また,診療室内に入る医療事務者等は必ずサージカルマスクを着用し,できれば高規格なマスクを着用することが求められます.

 

(2)マスクだけに頼らぬ感染対策の実施を

 N95マスクをはじめとする高規格マスクは,フィットテストは困難であっても着用毎にユーザーシールチェックを実施し,漏れがないことを確認します10).しかし,N95マスクで完全に密閉されていたとしても,ウイルス飛沫・エアロゾルの感染を完全には遮断できなかった11)との報告があります.当然のごとくマスクだけに頼るのではなく,換気やアルコール手指消毒,フェイスシールド等複数の方法によって感染対策を実施するべきだと考えられます.歯科治療前には患者の体調を把握し,歯科治療開始前には含嗽を実施することが有効12)と考えられています.

 他の文献では,患者と患者の距離を離す,1分間(!)の術前含嗽,患者との接触を15分以内に制限,ラバーダムの装着が出来ない場合は手用切削器具を用いるなど非現実的で実効性が乏しい報告が散見されています.また,日本歯科放射線学会は口内法ではなくパノラマ撮影を推奨していますが,厚生労働省の通達が無いため実際の保険診療で実現することは困難です.スタンダードプリコーションを感染対策の軸に,マスクだけに頼らぬ感染対策が求められます.

 

(3)歯科医院での使用におすすめのN95同等品マスク

 今回テストしたマスクの中から機能,フィット感,手に入れやすさ,見た目で選んだお勧めのマスクをご紹介します.毎日使うものだからコストも重視しています.N95,DS2の製品が手に入る今,イヤーループがどうしてもよいという人以外,あえてKN95,KF94を選択する必要性はないように感じました. いずれの使用にあたっても適切な着用方法で使用することが求められます.N95マスクを初めて着用すると硬い,苦しい,痛い,合わないと感じます.3MのV flexのように装着感が改善している新しいN95マスクも登場しています.慣れが解決してくれるところも大きいのではないかと思います.

今回テストしたN95同等品マスク
・3M 8205-DS2
・3M V flex 9105J-DS2
・3M 8210-N95
・興研 ハイラックマスク350
・山本光学 7500
・アズワン 3-8142-01
・(No brand)  KN95 2種類

 

おすすめ第1位

 3M  Vフレックス 使い捨て式防じんマスク 9105J-DS2 製造:日本 Amazon実売単価@82.8円

 フィット感がよく経済的.レギュラーサイズとスモールサイズがあります.カップ型ではないので患者さんの印象もよいかもしれません.

[レギュラーサイズ]

[スモールサイズ]

 

おすすめ第2位

 3M 使い捨て式防じんマスク 8205-DS2 製造:韓国 Amazon実売単価@145.9円

 手に入れやすく,スタンダードなカップ型の中で経済的なモデル.

 

おすすめ第3位

 アズワン 使い捨て式防塵マスク DS2 3-8142-01 製造:中国 実売単価@90.2円

 科学機器メーカー,アズワンの防塵マスク.カップ型で圧倒的な経済性.

 

6.Q&A

Q1.新型コロナウイルスは直径約0.1μm程度の大きさだとするとマスクの繊維を通過してしまい,意味がないのではないですか?

A.医療用マスクの多くは3〜5μm程度の粒子を除去することができます.新型コロナウイルスは0.1μmですのでマスクを通過してしまうリスクがあります.しかし,実際に咳やくしゃみ等で飛散される際にはウイルス粒子の周りに水分を含んだ直径約3.0~5.0μmの飛沫となっているため,サージカルマスクやN95マスク等によって感染のリスクを軽減することが可能と考えられます.

Q2.排気弁のついたマスクを見かけますが,使用しても構いませんか?

A.排気弁は着用者が粉塵を吸い込まず,呼吸がしやすいようについている機能です.着用者の呼気(に含まれる微生物)がフィルターを通さず外部に排気されるため,医療用途での使用は勧められません6)

Q3.JN95という製品を見つけましたがどのようなマスクですか?

A.JN95という規格はありません.ある企業が独自に名称をつけている製品のようですが,詳細は不明です.

Q4.日本の産業用防じんマスクのDS2はN95と同様に医療で使用しても構いませんか?

A.機能としては同等と考えられ,医療機関での使用実績もあります.しかし,人工血液による耐浸透試験を行っていないため、患者の血液や体液等がマスクから浸透するおそれのある手術や処置を行う場合には使用しないこと6)とされています.厚生労働省は,高速の血流がマスクに直接に降りかかるような状態として血管の穿刺等をあげ,検体採取等は該当しないとしています.動脈穿刺では使用不可で,通常の採血では使用可というところでしょうか.

Q5.N95相当として感染対策に利用可能なものかどうかを判断する方法はありますか?

A. 一般社団法人職業感染制御研究会が「N95相当の微粒子用マスクとして感染対策に利用可能なものかどうかを判断する5つの方法」13)を公開しています.基本的にはN95,DS2,FFP2の認証を確認するとよいでしょう.

Q6,FDAやCE認証マークを取得したマスクは安全性等を担保するものでしょうか?

A.FDA認証マークは米国国内流通のための要求事項をクリアしているという認証マーク14)です.同様にCE認証マークはEU圏内流通のための要求事項をクリアしているという認証マーク15)です.FDA認証マークもCE認証マークも厳しく試験され認証されているものではありますが,安全性を担保するという性質を持つものではありません.

Q7 .VFE試験とは何ですか?

A.ウイルス飛まつ捕集効率(VFE)試験はASTM F 2101 を元に日本の代表的な試験機関である一般財団法人カケンテストセンターが独自に開発した試験方法です.特定のウイルスを試験に用いるもので,この試験項目はJIS T 9001に採用されています.

Q8.N95マスクとサージカルN95マスクの違いは何ですか?

A.基本構造はN95レスピレーターとサージカルN95マスクは同一ですが,米国の医療機器などの認証を行う米国食品医薬品局(FDA)が承認したマスクで,米国では医療機器として認められているものです.2018年からNIOSHがサージカルN95レスピレーターを承認しています.N95レスピレーターの基準に加え,血液や体液に暴露される可能性がある医療従事者のために液体防護性と燃焼性の基準を満たしています.現在,CDCのウェブサイトでFDA・NIOSHの認証が取得できているサージカルN95 レスピレーターを検索することができます16)

Q9.KN95の粗悪品・偽造問題とは何ですか?

A.米国で新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりN95マスクが品薄になった際,中国製のKN95マスクが多く輸入されました. 2020年4月に,米国の労働安全衛生研究所(NIOSH)は,N95相当マスクの製品評価の結果をウェブで公開しました17).が,翌5月にはFDAが緊急使用許可した製品リストを修正しました.その際,KN95マスクの多くが規格をクリアできず,リストから削除されました18).中国で生産されたKN95には模造(コピー)品や規格外の製品が多く輸入されていたのです.

Q10 .イヤーループ型のN95マスクはオーバーヘッド型のN95マスクと同等に扱って構いませんか?

A.2020年5月20日,日本医師会総合政策研究機構は「耳かけ式 N95 マスクにおいて、エアロゾル発生手技での使用ではなく、サージカルマスクとしての利用を勧めるに至った」と結論付けています.N95の認証を得られているのであれば,フィルターの性能は同等と考えられますが,装着の密閉性やフィットの点でイヤーループ型は劣ると考えてよいと思います.厚生労働省が定める国家検定の防じんマスクはイヤーループを認めていません(つまりイヤーループ型のDS2は存在しない).

Q11.防じんマスクと防護マスクに違いはありますか?

A.「防じんマスク」とは,日本の労働安全衛生法に基づく防じんマスク国家検定区分DS1やDS2の認定を受けたものです.労働安全衛生法に基づく防じんマスク国家検定を受けていないN95認定のマスクは「防護マスク」として販売されています.余談ですが「防じんマスク」として日本の国家検定を得るには,イヤーループマスクでは認可を得ることが出来ません19)

Q12.N95マスクをオートクレーブ滅菌して再利用することは可能ですか?

A.再利用に関する報告にはいくつか報告がありますが,オートクレーブ滅菌による処理は報告が少なく,耐久性に関する確かなエビデンスをものはありません.現在は入手が容易なわけですからN95マスクは滅菌せずに使い捨てで使用することをお薦めします.

 

7.参考文献

1)国立大学法人豊橋技術科学大学 「Press Release2020年10月15日」
https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf
(Retrieved on August27, 2021)

2)中部近畿産業保安監督部近畿支部「防じんマスクの新規格の概要及びその対応について」
https://www.safety-kinki.meti.go.jp/kouzan/downloadfiles/funjin/maskkaisei.pdf
(Retrieved on August27, 2021)

3)CDC「NIOSH-approved N95 Particulate Filtering Facepiece Respirators」
https://www.cdc.gov/niosh/npptl/topics/respirators/disp_part/n95list1.html
(Retrieved on August27, 2021)

4) Wilson, Mar  「The untold origin story of the N95 mask」
https://www.fastcompany.com/90479846/the-untold-origin-story-of-the-n95-mask
(Retrieved on August27, 2021)

5) 国立国際医療研究センター・国際感染症センター 「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」
https://www.mhlw.go.jp/content/000678572.pdf
(Retrieved on August27, 2021)

6) 厚生労働省 「N95 マスクの例外的取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf
(Retrieved on August27, 2021)

7) Sabino-Silva R, Jardim ACG, Siqueira WL.
Coronavirus COVID-19 impacts to dentistry and potential salivary diagnosis. Clin Oral Investig. 2020 Apr;24(4):1619-1621.

8)Cleveland JL, Gray SK, Harte JA, Robison VA, Moorman AC, Gooch BF.
Transmission of blood-borne pathogens in US dental health care settings: 2016 update. J Am Dent Assoc. 2016 Sep;147(9):729-38.

9) Lo Giudice R.
The Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2 (SARS CoV-2) in Dentistry. Management of Biological Risk in Dental Practice. Int J Environ Res Public Health. 2020 Apr 28;17(9):3067.

10) 3M 「N95 マスクの適切な装着のための2つのCheck」
https://www.3mcompany.jp/3M/ja_JP/medical-jp/mask/fit-test/
(Retrieved on August27, 2021)

11) Ueki H, Furusawa Y, Iwatsuki-Horimoto K, Imai M, Kabata H, Nishimura H, Kawaoka Y.
Effectiveness of Face Masks in Preventing Airborne Transmission of SARS-CoV-2. mSphere. 2020 Oct 21;5(5):e00637-20.

12) Marui VC, Souto MLS, Rovai ES, Romito GA, Chambrone L, Pannuti CM.
Efficacy of preprocedural mouthrinses in the reduction of microorganisms in aerosol: A systematic review. J Am Dent Assoc. 2019 Dec;150(12):1015-1026.e1.

13) 一般社団法人職業感染制御研究会「N95相当の微粒子用マスクとして感染対策に利用可能なものかどうかを判断する5つの方法」
http://jrgoicp.umin.ac.jp/index_ppewg_respirator_defective.html
(Retrieved on August27, 2021)

14) FDA 「Surgical Masks – Premarket Notification [510(k)] Submissions」
https://www.fda.gov/regulatory-information/search-fda-guidance-documents/surgical-masks-premarket-notification-510k-submissions
(Retrieved on August27, 2021)

15) EUR-Lex「Document 32017R0745 」
https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/745/oj
(Retrieved on August27, 2021)

16)CDC「Respirator Trusted-Source Information-Surgical N95 Respirators」
https://www.cdc.gov/niosh/npptl/topics/respirators/disp_part/respsource3surgicaln95.html
(Retrieved on August27, 2021)

17) CDC「NPPTL Respirator Assessments to Support the COVID-19 Response」
https://www.cdc.gov/niosh/npptl/respirators/testing/NonNIOSHresults.html
(Retrieved on August27, 2021)

18) FDA「Respirator Models No Longer Authorized」
https://www.fda.gov/media/137928/download
(Retrieved on August27, 2021)

19) 公益社団法人産業安全技術協会「マスクに関するよくあるご質問」
https://www.jahmec.or.jp/pdf/public/bill165.pdf
(Retrieved on August27, 2021)

 

8.関連記事

クリニックで買ってよかったおすすめの清掃用具5選

【エビデンス】石鹸で手洗いすべきか、アルコール消毒すべきか。CDC Guideline for hand hygiene in health-care settings. を読んでみた。

口腔領域のバイオフィルム感染症について考えてみた。

 

PHOTO : malmo