新型コロナウイルス感染症の感染拡大により手洗いや手指消毒が注目されています。今回は「石鹸で手を洗うのとアルコールで手を消毒するはどちらがよいのか?」や「アルコール消毒薬のゲル剤と液剤はどちらがよいのか?」などをCDCの「Hand Hygiene in Healthcare Settings」「Guideline for hand hygiene in health-care settings」を中心に今回は簡単にQ&A方式でご紹介してみたいと思います。
Q1 手洗いとアルコール消毒はどちらが効果的ですか?
米国疾病管理予防センター(CDC)は2002年、「Guideline for hand hygiene in health-care settings.(医療現場における手指衛生ガイドライン)」を発表しました。「手指を目で見て肉眼的に汚染がなければアルコール消毒を実施するべきで、肉眼的に汚染されている場合は手洗いが優先される」とした同ガイドラインは今までの手指衛生の概念を変える画期的なガイドラインでした。20年が経とうとしている今でも手指衛生ガイドラインとして機能し続けています。
Q2 なぜ石鹸での手洗いよりもアルコール消毒が優先されるのですか?
CDCは4つの理由をあげています。
①石鹸は必ずしも手に優しくないから。
石鹸を使用して頻繁に手洗いをしていると皮膚炎や乾燥、刺激を起こしてしまいます。
②アルコール消毒は石鹸での手洗いよりも殺菌力が強いから
石鹸での手洗いは30秒で1/63~1/630個の細菌を減少させます。一方、アルコール手指消毒薬は同じ30秒で1/3,000に減少させます。さらに1分後には1/10,000~1/10,000まで減少させることが出来るとされています。
③アルコールは手指衛生に必要な時間を短縮できるから。
忙しい医師や看護師さん、このWebページを見てくださっている歯科医療従事者の皆さんは患者さん1人診察するごとに30秒間以上手洗いできるでしょうか?アルコール手指消毒は手指衛生にかかる時間を1/4にできるとしています。
④アルコールは手指を迅速に乾燥させるから。
濡れたままの手指や水分のふき取りが不十分な手には微生物などの病原体が付着しやすいことがわかっています。アルコール消毒液は迅速に手を乾燥させるので手指が濡れたままとはなりません。
Q3 アルコール製剤の液剤とゲル剤で効果に差はありますか?
ゲル剤のほうが劣るとする研究結果があるものの、大きな違いはないとする論文もあります。ゲル剤のほうが乾燥する時間まで長く、よく擦過しなければならないので、効果が高いとする論文も見たことがあります。
2002年のLancetに掲載されたドイツの論文(10種類のゲル剤と4種類の液剤を比較した研究)では、アルコール濃度80%以上のゲル剤であれば同等であるが、使用後30秒以内に欧州標準化委員会(CEN)が定める手指消毒効果試験EN1500の要求事項を満たすゲル剤はなく、ゲル剤は医療現場で使用されるべきではないと結論づけています。
日本の健栄製薬は同社のラビショット(液剤)とラビジェル(ゲル剤)の効果比較のため、EN1500に従った実験結果を公表しています。結果はラビショット、ラビジェルに効果の有意差はなく、EN1500の要求基準を満たすことが確認された。と公表しています。
保湿剤が添加されたゲル剤は手荒れなどの皮膚疾患を減少させるという論文があります(前出、健栄製薬の製剤はこれもまた有意差はないとしています)。手荒れを危惧して消毒の回数が減ってしまったり、手荒れによって細かい傷が出来てしまうような感染しやすい状況を作ることを考慮すると、保湿剤を配合したゲル剤も検討の余地があるのかもしれません。
Q4 保湿ローションやクリームは使用可能ですか?
保湿ローションやクリームは、手を洗うことで起こる皮膚の乾燥を防ぎ、減少させることができるとされています。皮膚炎、皮膚の乾燥による小さな傷を発生させることがないよう使用が推奨されているようです。医療用として認可されたハンドローションを使用すると手指消毒薬の妨げにならないとしています。
Q5 付け爪や指輪などは許容されますか?
医療従事者は手洗い、アルコール消毒以前に人工爪を装着しないことが推奨されています。また、指輪の下は、指輪をしていない指の同程度の皮膚よりも細菌が多いという研究結果もあります。まずは汚染されてもすぐに洗い流せ、すぐに消毒できる状況にしておくということが必要です。
Q6 アルコール手指消毒薬が効かない細菌はありますか?
アルコール手指消毒薬はClostridium difficileを消毒することが出来ません。MRSAと同様に院内感染を引き起こす芽胞形成菌Clostridium difficileによるクロストリジウムディフィシル感染症(CDI)は、多くは免疫低下や抗生物質の長期使用時に見られ、病院や施設に入院・入所している方に見られます。アルコール手指消毒薬は無効ですが、手指衛生によって感染拡大を予防できる感染症です。また同様に院内感染の原因菌となるEnterococcus faeciumにも耐性がみられたとする研究があります。
Q7 手洗い後、リネン(布)タオルで拭き上げるのはなぜダメなのですか?
何回も使用されてしまうため、手洗いを実施してキレイになった後にリネンタオルに付着している微生物が手指に付着する恐れがあるからです。手洗いのあとは、ペーパータオルやハンドドライヤーなどによって手指を乾燥させなければなりません。最近ではハンドドライヤーが新型コロナウイルスをはじめとする微生物を含むエアロゾルを作り出してしまうということで、使用禁止になっていることが多いのを目にします。理想的にはペーパータオルで拭き上げることがよいのだと思います。
Q8 手指消毒に推奨されているアルコール濃度はどのくらいですか?
CDCは60~95vol%を推奨しています。一方、厚生労働省は70~83vol%を推奨していました。しかし、2020年4月、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりこれらの濃度が手に入りにくくなってしまうということが起こりました。厚生労働省は新型コロナウイルスに対し60vol%台のエタノールによる消毒でも一定の有効性があるとし、70%以上のアルコールが手に入らない場合は手指消毒用として60vol%でもよいと発表しました。日本の酒造メーカーが消毒用アルコールを製造し、これを厚生労働省が認めたことを思い出します。
参考文献
CDC: Guideline for hand hygiene in health-care settings.
MMWR 51(RR-16): 1-47, 2002.
https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
(Retrieved on March17, 2021)
CDC: Hand Hygiene in Healthcare Settings
https://www.cdc.gov/handhygiene/index.html
(Retrieved on March17, 2021)
健栄製薬Webページ:新型コロナウイルスとアルコール手指消毒液
https://www.kenei-pharm.com/info_coronavirus/
(Retrieved on March17, 2021)
健栄製薬Webページ:ラビショット・ラビジェル
https://www.kenei-pharm.com/medical/intro/rabishot_gel/04.php
(Retrieved on March17, 2021)
厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の発生に伴う高濃度エタノール製品の使用について(改定(その2))
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/
items/200423_kiho_jimu2.pdf (Retrieved on March17, 2021)
厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/
bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html
(Retrieved on March17, 2021)
液状ならびにゲル状アルコール手指消毒薬の殺菌活性
梶浦 工ら 医療関連感染 Vol.2, 53-56 2009
Increasing tolerance of hospital Enterococcus faecium to handwash alcohols
Sacha J Pidot et al. Sci Transl Med. 10(452), 2018
アルコールゲル擦式手指消毒薬の殺菌効果の検討
茅野 崇ら 環境感染 Vol.20-2 p. 81-84, 2005
Limited efficacy of alcohol-based hand gels
Axel Kramer et al. Lancet. 359(9316):1489-90. 2002
Photo:malmo
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ラビジェルAはアルコール濃度76.9~81.4vol%です。