【エビデンス】フッ化第一スズ(SnF2)含有歯磨剤について調べてみた

投稿者: | 2021年9月8日
LINEで送る
Pocket

 

 フッ化ナトリウム (NaF)やモノフルオロリン酸ナトリウム (MFP),あるいはリン酸酸性フッ化ナトリウム(APF)と比較してフッ化第一スズ(SnF2)歯磨剤の情報は多くありません.なんとなくS.mutansに効果あるのは知っているけれど,着色や味のことで敬遠していたり・・・今回はそんなマイナーなフッ化物「フッ化第一スズ」にスポットを当ててみたいと思います.

※ 今回は文献検索で報告されている「ペースト」や「ジェル」を総称して「歯磨剤」と呼称しています.

 

1.フッ化第一スズ配合歯磨剤のエビデンス

 フッ化第一スズ(SnF2)配合歯磨剤は1950年にMuhlerらにより開発された歯面塗布剤1)を改良し歯磨剤に応用したものです.歯面塗布剤としては,8%(19,400ppm)や4%(9,700ppm)の水溶液が用いられますが,水溶液中での安定が難しく調整してから1時間以内の使用が薦められる2)ため,現在,塗布剤や洗口剤として商品化されているフッ化第一スズ製剤はありません.現在は0.4%のフッ化第一スズが配合された歯磨剤のみが市販されています.

 う蝕リスク因子の中でミュータンス連鎖球菌の感染と菌数がリスクを高めることがわかっています3) フッ化第一スズを使用したいという場合,S.mutansへの作用を期待してという場合が多いと思います.S.mutansやプラークへの効果,エビデンスについてご紹介していきたいと思います.

 なぜフッ化第一スズはS.mutansに対し効果があるのでしょうか.S. mutansは,スズイオンに高い受容力と親和性を有するこがわかっています4-7).つまりS.mutans自体がスズイオンを取り込みやすく,抗菌作用を発現するということです.

 フッ化第一スズの使用によって歯列矯正中のシビアな口腔環境でも,う蝕の発生および進行を抑制できた8)とする報告や,歯垢・歯肉・出血のスコアが有意に低く,歯肉炎予防には0.4%SnF2歯磨剤の使用が機械的歯面清掃の補助として有効9).とする報告,また,0.12%のクロルヘキシジンと同様の抗菌効果を示した10)とする報告がみられ,口腔内細菌に対する優れた効果が報告されています.

 フッ化第一スズはS.mutansへの効果だけではなく,耐酸性の高い酸化スズやフッ化スズを形成し歯の硬組織の保護に役立つと報告されています11,12).硬組織の耐酸性を増加させることができるため,知覚過敏に対しも有効性が高いとするシステマティックレビュー13,14)もあります.

 

2.フッ化第一スズ配合歯磨剤以外(含嗽や塗布法)のエビデンス

 歯磨剤で歯面に応用させる以外では含嗽やデンタルフロスを用いた塗布法の報告があります.いずれにしてもS.mutansなどへの効果に優れているという報告がよくみられました.

 含嗽法では,S. mutansの数を有意に減少させた15)とする報告や,S. mutansS. sanguisの両方が減少した16).とする報告がありました.デンタルフロスを用いた塗布法でも10%SnF2で処理したところS. mutans陽性部位の数が減少した17).とする報告がありました.また,ヒドロキシアパタイトを用いた基礎研究では,SnF2はNaFよりも耐酸性が有意に向上した18)という報告もありました.

 

3.フッ化第一スズ歯磨剤の使い方

(1)他のフッ化物との使い分けについて

 フッ化第一スズ配合歯磨剤はう蝕リスク検査プログラムであるCariogram等でS.mutansによるリスク因子が高いと判断した場合に積極的に使用します。虫歯菌(S.mutans)の数を減らす効果が高いのはフッ化第一スズ(SnF2)ですと単純に説明してよいと思います.他のフッ化物と同様に歯磨剤を作用させた後は,うがいや飲食物を控えると効果が高いと考えられます.

(2)着色について

 フッ化第一スズ含有歯磨剤は、長期的な使用によって歯の表面に着色が起こることがわかっています19).フッ化第一スズを溶液として使用した場合,pH2.8付近と強い酸性を有しており,この強い酸性度によってペリクルタンパク質が変性し,スズイオンと反応し硫化スズが産生された結果との報告20)があります.しかし,歯磨剤として市販されている製品の場合,pHが中性に調整されている(FEEDが販売しているピドケアの場合,pHは6.8±0.3に調整されています21)).ことが多く,歯磨剤でも着色が起こる理由としてそのまま受け入れることは困難です.

 一方,フッ化第一スズ配合歯磨剤「ホームジェル」を販売するオーラルケア社のWebページでは,プラークやだ液に含まれている硫黄とスズイオンが反応して歯面に沈着する22)と説明されています.確かに口腔内のプラークに存在するP.gingivalisは揮発性硫黄化合物を産生する23)ことがわかっていますし,Treponema denticolaも硫化物を生成します24).これらの細菌がスズイオンと反応し着色の原因物質である硫化スズを作り出すという説明です.つまり,使用方法として歯磨剤と同様にいきなり口腔内に入れるのではなく,歯磨剤でプラークを落としてからフッ化第一スズ歯磨剤を作用させることによって着色を予防しましょうね.ということです.フッ化第一スズによる着色はポリッシングなどで簡単に除去することが可能ですので,そんなに気にしなくてもよいのかもしれません.

(3)味・香りについて

 フッ化第一スズ配合歯磨剤は,特有の苦みや金属のような味を感じますが,使用を続けることで慣れることが出来ます.また,製品によって様々な香味が付けられていますので,患者の好みに合うものを選択させ使用を継続します.

(4)金属アレルギーについて

 フッ化第一スズ配合歯磨剤には金属イオンであるスズイオンが含まれています.金属アレルギーの報告については見つけることが出来ませんでしたが,実際の使用については使用開始前に問診で確認したほうがよさそうです.

 

 

4.まとめ・独り言

 今回はフッ化物の中でもマイナーなフッ化第一スズを取り上げてみました.今まで報告されているエビデンスをなんとなくふわっとご紹介しただけになってしまいました.歯周治療分野でも化学的プラークコントロール剤として用いられていますが,今回はう蝕予防効果のみ取り上げています.

(1) スズは原子番号50,紀元前の古くから装飾品として用いられてきた.製品としてはハンダやブリキのおもちゃが「スズ」で作られています.

(2) 基礎・臨床問わず多くの文献がみられたものの,他のフッ化物と比較してフッ化第一スズ歯磨剤の報告は少なかった.

(3) 培養やCariogram等でS.mutansが多いと判断した場合におすすめ.

(4) 金属アレルギーを含め,長期使用による着色以外の副作用報告以外は見つけることが出来ませんでした.

(5) SnF2は安定性に乏しいため,発泡剤や研磨剤が未配合であることが多い.だから着色も起こりやすいと.

(6) 細菌を減らすだけではなく,歯の耐酸性も向上させ知覚過敏にも有効性が高い.

 

5.Colgate Gel-Kam®を購入してみた

Amazon.comで購入してみました.米国では普通に販売されています.
$11.49だったので大体1,300円($1=113.51円10/14現在)でした.欲しい方用にAmazon.comのリンクを貼っておきます.
0.4%Stannous fluorideなので950ppmとか,960ppmとか.味はFRUIT&BERRY!という,いかにも米国の歯磨剤です.
ちなみに今ぼくが使っている歯磨き粉3M Clinpro5000もBubble Gum味です.

Drug Factsには何が書いてあるかというと・・・
・adults and children 12years of age or older: use after regular brushing and flossing
 大人と12歳以上の子供に使用してください.通常の歯磨きとフロスの後に使用してください.
・shake excess water from your toothbrush and cover bristles with gel
 歯ブラシについた水をよく切って,ジェルを歯ブラシにつけます.
・brush thoroughly
 十分に歯を磨いてください.
・keep on your teeth for one minute and then spit out
 1分間磨いた後,吐き出してください.
・do not swallow
 飲み込まないでください.
・do not rinse, eat or drink for 30 minutes
 30分はゆすいだり,飲食を避けてください.
・use once a day for cavity protection
 う蝕予防のために1日1回使用してください.
・use twice a day (morning and evening) for sensitivity relief or as recommended by a dentist or physician
 医師や歯科医師に勧められた時や知覚過敏予防のためには1日2回(朝・夕)使用してください.
・make sure all sensitive areas are covered by using a toothbrush or a cotton swab
 知覚過敏の部位には歯ブラシや綿棒を使ってしっかりと覆ってください.
・supervise children until capable of using without supervision
 小児が使用する場合は正しく使えるようになるまで監督してください.
・children under 12 years of age: consult a dentist or physician
 12歳未満の小児は,歯科医師または医師にご相談ください.

と書いてあります.
歯磨きとフロスの後に使用してくださいとちゃんと書いてあります.
そして,知覚過敏への効能をちゃんとうたっていますね.

 

6.フッ化第一スズの今後 ~クリアすべき課題~

(1)フッ素濃度と対象年齢

 2017年,厚生労働省によってフッ素イオン濃度改定がされましたが,フッ化第一スズは濃度上限が1,000ppmのまま据え置かれました(おそらく1,500ppmにした場合のデータが少ないから).現在,他のフッ化物配合歯磨剤は1.500ppm(1,450ppm程度)のフッ素イオン濃度を持つ歯磨剤が販売されているので成人の方の場合,一見,見劣りしてしまうのは否めないと思います.現在,市販されているフッ化第一スズ製剤は1,000ppm(950ppm程度)なので,ガイドライン上,14歳以下にも使用できます.

(2)歯科医療従事者の理解とマーケット

 今回,フッ化第一スズ製剤のエビデンスを紹介していきました.日本の歯科医師・歯科衛生士が使用する教科書には,さらっとしか紹介されておらず,日本では歯科医療従事者ですら充分に理解されていないのではないかと感じました.一般的にドラッグストアで販売されていないフッ化第一スズ製剤ですので,歯科医師・歯科衛生士から適切に情報提供されない限りフッ化第一スズの理解が広まることはありません.歯科医療従事者だけではなく他の医療従事者にもフッ化第一スズへの理解を深めてもらい,一般消費者に広がるといいなと考えました.

(3)金属味

 現在,販売されているフッ化第一スズ配合歯磨剤にはフルーツ味やラムネ味など,できるだけフッ化第一スズ特有の金属味をマスクするような香味が付けられています.それでも口に含みブラッシングで使用していると金属味が出てしまいます.感じ方は人それぞれですが,「イヤだ」と言われてしまう一つの要因です.一つのこの辺がクリアできればもっと使ってくれる人が増えていくのではないかなと考えます.金属味を少なくする工夫としては,フッ化第一スズ配合歯磨剤の前に,他のフッ化物配合歯磨剤でブラッシングをしてから使います.

(4)着色

 本文でもご紹介したようにフッ化第一スズ製剤は着色することが知られています.外因性の着色なので研磨剤が配合されていればある程度着色が防止されるのではないかとも思いますが,フッ化第一スズ製剤は研磨剤との兼ね合いが困難なようです.同様の理由で発泡剤も含まれていませんが,こちらも好みが分かれますね.

 

 

7.参考文献

フッ化第一スズ(SnF2)の文献は古いものも多く,医学部図書館にもなかった論文はabstractから引用した文献もあります.

1)  Muhler JC, Van Huysen G. Solubility of enamel protected by sodium fluoride and other compounds. J Dent Res. 1947 Apr;26(2):119-27.

2) 日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会編(2017) う蝕予防の実際フッ化物局所応用実施マニュアル 社会保険研究所

3) Kirthiga M, Murugan M, Saikia A, Kirubakaran R. Risk Factors for Early Childhood Caries: A Systematic Review and Meta-Analysis of Case Control and Cohort Studies. Pediatr Dent. 2019 Mar 15;41(2):95-112.

4) Attramadal A, Svatun B. Uptake and retention of tin by S. mutans. Acta Odontol Scand. 1980;38(6):349-54.

5) Keene HJ, Shklair IL, Hoerman KC. Partial elimination of Streptococcus mutans from selected tooth surfaces after restoration of carious lesions and SnF2 prophylaxis. J Am Dent Assoc. 1976 Aug;93(2):328-33.

6) 吉沼 直人, 音琴 淳一ら (1995) 0.4%フッ化第一スズ含有ペーストが臨床症状および唾液中のStreptococcus mutans数におよぼす効果について 歯薬療法14-2 P119-124

7) Tseng CC, Wolff LF, Aeppli DM. Effect of gels containing stannous fluoride on oral bacteria–an in vitro study. Aust Dent J. 1992 Oct;37(5):368-73.

8) Stratemann MW, Shannon IL. Control of decalcification in orthodontic patients by daily self-administered application of a water-free 0.4 per cent stannous fluoride gel. Am J Orthod. 1974 Sep;66(3):273-9.

9) Boyd RL, Chun YS. Eighteen-month evaluation of the effects of a 0.4% stannous fluoride gel on gingivitis in orthodontic patients. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1994 Jan;105(1):35-41.

10) Tseng CC, Wolff LF, Aeppli DM. Effect of gels containing stannous fluoride on oral bacteria–an in vitro study. Aust Dent J. 1992 Oct;37(5):368-73.

11) Berndt AF. Reaction of stannous fluoride with hydroxyapatite: the crystal structure of Sn 3 PO 4 F 3 . J Dent Res. 1972 Jan-Feb;51(1):53-7.

12) Feller RP. Reduction of enamel solubility by daily use of a 0.4 per cent stannous fluoride gel. J Dent Res. 1974 Sep-Oct;53(5):1280-3. 

13)  Konradsson K, Lingström P, Emilson CG, Johannsen G, Ramberg P, Johannsen A. Stabilized stannous fluoride dentifrice in relation to dental caries, dental erosion and dentin hypersensitivity: A systematic review. Am J Dent. 2020 Apr;33(2):95-105. 

14) West NX, He T, Zou Y, DiGennaro J, Biesbrock A, Davies M. Bioavailable gluconate chelated stannous fluoride toothpaste meta-analyses: Effects on dentine hypersensitivity and enamel erosion. J Dent. 2021 Feb;105:103566.

15) Svanberg M, Rölla G. Streptococcus mutans in plaque and saliva after mouthrinsing with SnF2. Scand J Dent Res. 1982 Aug;90(4):292-8.

16) Svanberg M, Westergren G. Effect of SnF2, administered as mouthrinses or topically applied, on Streptococcus mutans, Streptococcus sanguis and lactobacilli in dental plaque and saliva. Scand J Dent Res. 1983 Apr;91(2):123-9.

17) Keene HJ, Shklair IL, Mickel GJ. Effect of multiple dental floss-SnF2 treatment on Streptococcus mutans in interproximal plaque. J Dent Res. 1977 Jan;56(1):21-7.

18) Baig AA, Faller RV, Yan J, Ji N, Lawless M, Eversole SL. Protective effects of SnF2 – Part I. Mineral solubilisation studies on powdered apatite. Int Dent J. 2014 Mar;64 Suppl 1:4-10.

19) Boyd RL, Chun YS. Eighteen-month evaluation of the effects of a 0.4% stannous fluoride gel on gingivitis in orthodontic patients. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1994 Jan;105(1):35-41.

20) Ellingsen JE, Eriksen HM, Rölla G. Extrinsic dental stain caused by stannous fluoride. Scand J Dent Res. 1982 Feb;90(1):9-13.

21) 木村 英一郎, 野村 智義ら(2014). フッ化物入りペーストがチタンの耐食性に与える影響 日口腔インプラント会誌27-1 P54-60

22) FAQ(よくあるご質問) オーラルケアhttps://www.oralcare.co.jp/faq/ (Retrieved on september8, 2021)

23) 天野敦雄ら (2012) ビジュアル歯周病を科学する クインテッセンス出版

24) 奥田克爾 (2020) デンタルプラークのすべて 医歯薬出版

 

 

8.関連記事

【エビデンス】なぜ大人の歯にこそフッ化物応用が必要なのか?

えっ!?なんでフッ化物(フッ素)洗口してないの??フッ化物洗口をお薦めする理由

【エビデンス】歯のフッ素症(斑状歯)はフッ化物洗口やフッ化物配合歯磨剤で起こるのか?

 

 

9.おすすめ

フッ化第一スズ歯磨剤はいかに特有の金属味をマスクできるか.
それにしてもメジャーな歯磨剤メーカーが取り扱わない・・・.

 

 

 

PHOTO:Malmo