【エビデンス】デンタルフロスや歯間ブラシは歯周病・う蝕の予防に有効か?

投稿者: | 2023年1月26日
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 現在のデンタルフロスによる歯間清掃のはじまりは,今から200年ほど前(1815年),米国の歯科医Levi Spear Parmly(1790-1859)が現在のフロスの原型となる絹糸で作った歯間清掃用具を発明し,自著で歯間清掃を推奨したことにはじまります1)

 歯科医院など歯科臨床現場で推奨されはじめたのは第二次世界大戦以降,米国の医学研究者で「バス法」で知られるCharles Cassidy Bass(1875 – 1975)によってナイロン製のデンタルフロスが開発されてからでした2).日本でも歯周病や隣接面う蝕を予防することを目的にデンタルフロスを勧める歯科衛生士さんが多いと思います.デンタルフロスの使用が,う蝕予防に繋がるというエビデンスはあるのでしょうか?今回は歯間清掃補助用具ということでデンタルフロスに歯間ブラシも織り交ぜて,歯周病やう蝕はどの程度予防できるのかについてエビデンスを基にご紹介してみたいと思います.

 

1.歯周疾患とデンタルフロス

 1998年,米国ボストン大学歯学部の研究グループは25年以上の追跡研究により,レントゲンによる歯槽骨吸収(ABL)が20%増加するごとに死亡リスクは51%増加し,喫煙に起因するリスクと同程度の大きさだったと報告しました3).米国歯周病学会やNewsweekをはじめとするメディアはこの研究結果をうけ「Floss or Die(フロスをするか,死ぬか)」とセンセーショナルに取り上げ,国民のデンタルフロスの使用率向上に大きく影響を与えました.

 2014年,日本のオーラルケアメーカー「ライオン」が調査した3か国のデンタルフロスの使用率で,米国のデンタルフロス使用率は60.2%,スウェーデンの使用率は51.3%だったのに対し,日本の使用率は19.4%と米国,スウェーデンと比較してかなり低い使用率であることがわかっています4).また,平成28年度歯科疾患実態調査では歯間ブラシを含む歯間部清掃を行っている者は30.6%と発表されているので,日本では国民の約1/3以下しか歯間部清掃を実施していないというデータになっています5).日本の歯科医院では歯科衛生士から口腔衛生指導を受ける際,必ずと言っていいほどデンタルフロスの使用についてのアドバイスを受けると思います.この使用率の結果は国ごとのメインテナンス・定期検診への受診率の差も反映されているものと思われます.

 さて,デンタルフロスの歯周病に対する効果についてエビデンスは示されているのでしょうか? 2011年に発表されたコクランデーターベースではフロスと歯ブラシの併用は1か月または3か月のプラークの減少に関連し,歯ブラシのみと比べて歯肉炎が減少すると報告されています6).続く2013年に発表されたコクランデーターベースでは,歯間ブラシとフロスのいずれについてもプラークの減少に対する効果を主張するエビデンスは不十分であると報告されています7)

 現在もっとも新しい2019年のコクランデーターベースでは,エビデンスの質が低いものの,歯ブラシ単独よりもフロスや歯間ブラシを使用することは歯肉炎や歯垢,あるいはその両方を減少させる可能性があると報告され,歯間ブラシはフロスよりも効果的かもしれないとも報告されています8)

 このように現在,歯肉炎への効果を示すデータは得られているものの,現在のところ歯周病への有効性を示すデータはありません.これは歯周病に対して効果がないということではなく,慢性疾患の病態を鑑みると長期的な研究が必要であり,今後,多くの長期的な臨床研究が発表されることで,この結果は覆る可能性が十分あると考えています.

 

歯ブラシ単独だと58%程度しかプラークが除去できないって本当?

 「歯ブラシ単独だと58%程度しかプラークが除去できない」という広告を見たことがないでしょうか?この広告の元になっている研究結果は古く1975年に発表された論文を元に作成されています.3分間スティルマン改良法でブラッシングしたところ58%しかプラークが除去できなかったが,ブラッシングに歯間ブラシを加えるとプラークが95%除去でき,同様にブラッシングにデンタルフロスを加えるとプラークが86%除去できたという研究です9)

 これだけプラークの除去効果があるというのですから,歯間ブラシやデンタルフロスをお薦めするに格好の材料となりそうです.しかし,この研究は歯間空隙の開いた患者さんを対象に,決してプラーク除去効果が高いとは言えないスティルマン改良法を指導して実施させていますし,歯間ブラシやデンタルフロスの使用法を指導した後に6日間,毎食後に練習するよう指示し,その直後に計測したものなのです.また,単回のみの測定で経時的に観察を行った研究ではありません.つまり,研究デザインが実際の臨床の場や家庭での使用状況と大きくかけ離れていて,あまり参考になるデータではありません.

 

 

2.う蝕とデンタルフロス

 米国歯科医師会(ADA)は,従来からデンタルフロスがう蝕リスクを低減する可能性があると発表し,デンタルフロスの使用を推奨しています10).しかし,2016年,米国のAP通信は25件の研究データを基に「フロスが体に良いという主張を裏付ける証拠はなかった」と結論付け報道しました11). この報道は衝撃を持って受け入れられましたが,本当にデンタルフロスはう蝕予防に効果がないのでしょうか?デンタルフロスのう蝕への効果について現在得られているエビデンスをご紹介してみたいと思います.

 ワシントン大学歯学部のチームにより2006年に発表されたシステマティックレビューでは,かなり限定的なう蝕リスクの減少を報告しています.内容を簡単にご紹介すると,フッ化物の摂取が少ない小児(主に乳歯)において歯科専門職が週5回フロッシングを行ったら40%う蝕リスクが減少した.というものです.ほぼ毎日,歯科専門職がフロッシングしないと効果が出ないということでもあります.また,このレビューでは3か月ごとのプロフェッショナルフロッシングとセルフケアによるフロッシングではう蝕リスクを低減しなかった10).とありますから,もう絶望的になります.信頼性の高い研究においてう蝕リスクが低下したとする研究はこの限定的なレビュー1件です.

 2017年に発表されたブラジルの先生方によるシステマティックレビューでも,乳歯の隣接面う蝕の減少との間に関連性があるのは上記の研究のみだったと結論付けています12)

 デンタルフロスは隣接面う蝕に効果があるのかという問いに対しては,まずフッ化物なしの歯磨きにう蝕予防効果がないと結論付けられていることを知っておかなければなりません13).つまりフッ化物配合歯磨剤を使用しないフロスによるう蝕予防は成立するのか?ということです.ちなみに歯間ブラシの使用は隣接面う蝕の抑制には効果がなかったと報告されています14)

 

 

3.ゴム製歯間ブラシにエビデンスは存在するのか?

 2003年,日本の小林製薬から,従来のワイヤーを使用しない全く新しい歯間ブラシ「糸ようじ やわらか歯間ブラシ」が発売されました.発売されてから20年が経過しているわけですが,現在,ドラッグストアでは,ブラシ部分にシリコンやエラストマー樹脂を使用した歯間ブラシ(以下ゴム製歯間ブラシ)をよく見かけます.数ある製品が発売されては消えていく中で,20年もの間,販売され続けていることは需要がある,受け入れられているということなのだと思います.

 歯間ブラシの先駆者,スウェーデンのTePeでも歯間ブラシではなく新しいコンセプト「歯間ピック」としてイージーピック®を販売しています.清掃効率は従来のブラシに劣りますが,一般の方が使うことを想定すると使用感や安全性などはゴム製歯間ブラシに分があるように思います.一般的に歯間ブラシはフロスよりも簡便で,患者が好んで継続して使うことが出来る15)とされています.世界に存在しているエビデンスはどのように評価しているのでしょうか?

 基礎研究の結果からは,ゴム製歯間ブラシと比べて従来型のブラシのほうが清掃効率が高かったと報告されています16).しかし,コクランデーターベースではゴム製歯間ブラシの使用と歯ブラシの併用により,1ヵ月後の歯垢が減少する可能性があると報告されています17).その他にもフロスや歯間ブラシと比較してプラークスコアに差はないが,従来のものよりも使用感がよく患者に受け入れられやすい18)と報告されています.

 まずは歯間ブラシを使ってもらうことが大切で,その際には患者さんに受け入れられる必要があります.その際には使用感のよいゴム製歯間ブラシの選択も正解なのかもしれないなと思いました.以前,マルメのTePeを訪問した際,「患者は何も指示しなければ本来のサイズより小さいサイズの歯間ブラシを選択してしまうことが多い」と聞きました.ゴム製歯間ブラシについても歯間部を傷つけず,適切な清掃効果を得るために歯科医師,歯科衛生士が患者個人に合ったサイズを選択してあげるべきだと考えました.

 

 

4.歯ブラシが先かフロスが先か

 歯ブラシの前にフロス(あるいは歯間ブラシ)を使用するべきと考えている歯科医師,歯科衛生士が多くいると思います.確かにJournal of Periodontologyに掲載されたイランの先生方によるRCTの論文ではフロスを先に使用することでより多くプラークを減少させ,フッ化物濃度を維持することができるとしています19).しかし,その後に発表されたブラジルの先生方のシステマティックレビューによりフロスを歯磨きの前に実施しようが,後に実施しようがプラークインデックスに統計学的な有意差は認められなかったとされています20).つまり「どちらが先でも変わらない」と結論付けられています.こちらに関してはシステマティックレビューが存在するものの,質の高い研究が数多く存在するというわけではありませんので,今後の研究を見守る必要があるかなと思います.

 

 

5.まとめ

 今回のエビデンス検索による個人的なまとめです.これから研究で様々なことがわかっていくのだと思いますが,フロス,歯間ブラシのう蝕や歯周病に対する効果が明らかになるにはもう少し時間がかかるのかなという感じがしました.ご意見等,こちらからお寄せいただけますと励みになります.

なお,内容の正確性については気を付けておりますが,誤訳等ありましたらお知らせいただければ幸いです.また,リンクや引用等をいただける場合もこちらからお知らせいただけますと励みになります.

・フロスは歯肉炎やプラークを減少させるかもしれないが,質の高いエビデンスは得られていない.

・歯周病に対する効果は現在のところ得られていない.

・う蝕や歯周病への効果は長期的な臨床研究データが必要になるため,今後,エビデンスが更新される可能性がある.

・フッ化物を塗布したフロッシングだとう蝕予防に対し有意差が出るかもしれない.

・デンタルフロスよりも歯間ブラシのほうが効果が高いかもしれない.

・ゴム製の歯間ブラシは使用感がよく,患者に受け入れられやすい.

・2022年の論文で歯ブラシが先でもフロスが先でもどちらでも変わらないと結論付けられている.

 

 

6.参考文献

1) L S Parmly  A Practical Guide to the Management of the Teeth Comprising a Discovery of the Origin of Caries, or Decay of the Teeth, with Its Prevention and Cure 1819

2) BASS CC. The optimum characteristics of dental floss for personal oral hygiene. Dent Items Interest. 1948 Sep;70(9):921-34.

3) Garcia RI, Krall EA, Vokonas PS. Periodontal disease and mortality from all causes in the VA Dental Longitudinal Study. Ann Periodontol. 1998 Jul;3(1):339-49.

4) ライオン 日本・アメリカ・スウェーデン 3カ国のオーラルケア意識調査 Vol.2

https://www.lion.co.jp/ja/company/press/2014/pdf/2014050.pdf (Retrieved on January 26, 2023)

5)平成28年度歯科疾患実態調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-28-02.pdf (Retrieved on January 26, 2023)

6)Sambunjak D, Nickerson JW, Poklepovic T, et al. Flossing for the management of periodontal diseases and dental caries in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2011;(12):CD008829. Published 2011 Dec 7.

7)Poklepovic T, Worthington HV, Johnson TM, et al. Interdental brushing for the prevention and control of periodontal diseases and dental caries in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(12):CD009857. Published 2013 Dec 18.

8)Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, Sambunjak D, Johnson TM, Imai P, Clarkson JE. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Apr 10;4(4):CD012018.

9)山本 昇, 長谷川 紘司, 末田 武, 木下 四郎 Interdental Brush と Dental Floss の清掃効果について 日本歯周病学会誌. 1975, Vol17(2)P258-264

10) Hujoel PP, Cunha-Cruz J, Banting DW, Loesche WJ. Dental flossing and interproximal caries: a systematic review. J Dent Res. 2006 Apr;85(4):298-305.

11) https://consumer.healthday.com/dental-and-oral-information-9/misc-dental-problem-news-174/is-all-that-flossing-really-worth-it-713514.html

12)de Oliveira KMH, Nemezio MA, Romualdo PC, da Silva RAB, de Paula E Silva FWG, Küchler EC. Dental Flossing and Proximal Caries in the Primary Dentition: A Systematic Review. Oral Health Prev Dent. 2017;15(5):427-434.

13)Hujoel PP, Hujoel MLA, Kotsakis GA. Personal oral hygiene and dental caries: A systematic review of randomised controlled trials. Gerodontology. 2018;35(4):282-289.

14)Kim SJ, Lee JY, Kim SH, Cho HJ. Effect of interdental cleaning devices on proximal caries. Community Dent Oral Epidemiol. 2022 Oct;50(5):414-420.

15)Christou V, Timmerman MF, Van der Velden U, Van der Weijden FA. Comparison of different approaches of interdental oral hygiene: interdental brushes versus dental floss. J Periodontol. 1998 Jul;69(7):759-64.

16)Graetz C, Schoepke K, Rabe J, Schorr S, Geiken A, Christofzik D, Rinder T, Dörfer CE, Sälzer S. In vitro comparison of cleaning efficacy and force of cylindric interdental brush versus an interdental rubber pick. BMC Oral Health. 2021 Apr 14;21(1):194.

17)Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, et al. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019;4(4):CD012018. Published 2019 Apr 10.

18)Abouassi T, Woelber JP, Holst K, Stampf S, Doerfer CE, Hellwig E, Ratka-Krüger P. Clinical efficacy and patients’ acceptance of a rubber interdental bristle. A randomized controlled trial. Clin Oral Investig. 2014 Sep;18(7):1873-80.

19)Mazhari F, Boskabady M, Moeintaghavi A, Habibi A. The effect of toothbrushing and flossing sequence on interdental plaque reduction and fluoride retention: A randomized controlled clinical trial. J Periodontol. 2018;89(7):824-832.

20)Silva C, Albuquerque P, de Assis P, et al. Does flossing before or after brushing influence the reduction in the plaque index? A systematic review and meta-analysis. Int J Dent Hyg. 2022;20(1):18-25.

 

 

6.おすすめ

 

TePeのイージーピックです.XS/SとM/Lの2サイズ展開です.

 

小林製薬のやわらか歯間ブラシです.4S/S,3S/S,SS/M,M/Lの4サイズ展開です.

 

GCのデンタルフロスです.ちぎれづらくてよいと思います.

 

 

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