【エビデンス】イエテボリ・テクニックは本当に効果的なの?エビデンスはあるの?に答えます。

投稿者: | 2021年3月25日
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 イエテボリ・テクニックはスウェーデンのイエテボリ大学歯学部Cariology講座のDowen Birkhed教授らによって提唱されました。このフッ化物配合歯磨剤の使用方法は、フッ化物を効果的に口腔内に残すことを目的にしています。今回、日本ではイエテボリ・テクニック(法)として紹介されているModified fluoride toothpaste techniqueを、発表されているエビデンスをもとにご紹介してみたいと思います。

*本投稿ではビルクヘッド教授らの「Modified fluoride toothpaste technique」を所謂「イエテボリ・テクニック」としています。投稿中、表現が混在しますが同じものと考えてください。

 

1.イエテボリ・テクニックの実際のやり方

 

 論文によって細かな点が異なりますが、現在イエテボリテクニックとして紹介されている方法は大体以下の通りです。

 (1) 歯ブラシに2cmの歯磨剤をつける
 (2) 歯磨剤を歯面全体に広げる
 (3) 2分間ブラッシングをする
 (4) 泡を保持する
 (5) 10mlの水を含む(泡は吐き出さない)
 (6) 30秒間その懸濁液で洗口する
 (7) 吐き出す(水でゆすがない)
 (8) 2時間何も食べない

 2cmの歯磨剤って結構たっぷりだし、まずはそのたっぷり歯磨剤を歯に塗り広げたり、食べかすの含まれたキタナイ泡でクチュクチュうがいするのは抵抗がある人いそうですけどね…。

 

 

2.イエテボリ・テクニックの元になった研究

 

 イエテボリ・テクニック(Modified fluoride toothpaste technique)をもっとよく知るために、このフッ化物配合歯磨剤を口腔内に残そうという発想の元となった論文を読んでみる必要があります。いずれもフッ化物配合歯磨剤を使った後、よくうがいして洗い流してしまうよりも、軽くうがいして少し残ったほうが、う蝕が少なかったという論文です。以下のような予備研究(的)の結果から1995年に発表されるModified fluoride toothpaste techniqueの着想に至ったのではないかと推測します。

Chesters RK, Huntington E, Burchell CK, Stephen KW.
Effect of oral care habits on caries in adolescents.
Caries Res. 1992;26(4):299-304.

 スコットランドの子供(平均12.5歳)3,005人を対象とした3年間の臨床試験。フッ化物配合歯磨剤を使用した後、コップを使用してうがいする子供は、コップを使わないで口をゆすぐ子供よりもう蝕発生が高い値を示した。

 つまり、歯磨き後にコップを使って、よくゆすいでしまう子供はう蝕の発生率が高く、手ですくって少量の水でゆすぐ子供はう蝕発生率が低かったという結果です。

 

Sjögren K, Birkhed D.
Factors related to fluoride retention after toothbrushing and possible connection to caries activity.
Caries Res. 1993;27(6):474-7.

 スウェーデンBohuslän地方のPublic dental clinicに通う患者47名が対象の臨床実験。クリニックで家と同じように磨いてもらって歯磨きの時間、歯磨剤の量、水の量、歯磨き後の洗口回数などをう蝕リスクが低い群(Low lisk群:23人DMFT4.8本)と高い群(High lisk群:24人DMFT18.9本)に分け、観察・比較したもの。う蝕リスクがLow liskな患者はHigh liskな患者よりも歯磨き後のうがい回数と水の量が少なかった(歯磨剤の量とブラッシング時間に有意差はなかった)。唾液中のフッ化物濃度はLow lisk群の方がHigh lisk群よりも有意に高い平均値を示した。

 つまり歯磨きの後のうがいの回数と水の量が少ない人は、う蝕になりにくいという結果です。

 

 

3.イエテボリ・テクニック(Modified fluoride toothpaste technique)を紹介した論文

 

話題になっているイエテボリ・テクニックの論文は一体どんな研究だったのでしょうか。

Effect of a modified toothpaste technique on approximal caries in preschool children
Sjögren K, Birkhed D, Rangmar B.
Caries Res. 1995;29(6):435-41. 

 ビルクヘッド教授らが1995年に発表した論文です。従来のフッ化物配合歯磨剤を用いた歯ブラシの方法をModified fluoride toothpaste techniqueに変更した際のう蝕予防効果(第1大臼歯遠心面と第2大臼歯近心面のレントゲン写真)を評価しています。対象は4歳の子ども369名で、3年後の7歳の時点で76%の281名が試験を完了することができたとしています。介入群の131名には(1)歯磨き前に歯磨剤を歯に均等に塗り広げること(2)歯磨き中に必要以上につば(唾液)を出さないこと(3)唾液を出す前に1分間、頬を積極的に動かし歯磨き粉の泡を少しの水と一緒にゆすぐこと(4)歯磨き後にそれ以上のうがいを行わず歯磨き後2時間は飲食をしないという、いわゆる「イエテボリ・テクニック」を指示しています。一方、コントロール群の150名には歯磨剤の使用方法や歯磨き後のすすぎ方についての指導は一切行わず、介入群と同じ歯磨剤と1日2回の歯磨きを指示しました。

 イエテボリ・テクニックを実施した介入群は3年間で平均1.14本のう蝕が発生したのに対し、コントロール群は1.55本だった。イエテボリ・テクニックによって就学前の子どもの隣接面う蝕が平均26%減少したことが示された。というものです。この他に同著者別論文で唾液中のフッ素濃度などを測定した基礎研究的な論文もあったのですが、ここでは割愛します。

 

 

4.イエテボリ・テクニック(Modified fluoride toothpaste technique)を用いた論文

 

 1995年にイエテボリ・テクニックが紹介され、いくつかこの方法を使った介入研究が実施されています。印象としては、まだ応用した研究論文が少ないなぁという印象です。今回はその中から3つご紹介したいと思います。

Sjögren K, Birkhed D, Rangmar S, Reinhold AC.
Fluoride in the interdental area after two different post-brushing water rinsing procedures.
Caries Res. 1996;30(3):194-9.

 イエテボリ・テクニックが発表された翌年の1996年に発表された論文です。20名の被験者を対象に,7日間の3つの実験期間(A,B,C)を設けて,1日2回歯磨きをさせ3時間後の残存フッ素量の調査を行ったイエテボリ・テクニックをA、従来の歯磨きをB、歯磨剤を使わず0.05%NaFで2分間洗口させたものをCに設定した。結果、プラーク中のフッ素濃度はAがBの平均2.7倍だった。AはB、Cよりも有意差をもって高いフッ素濃度を示した。また、BとCを比較したところCの方がプラーク中のフッ素濃度が高くなった、というもの。
 細かい部分はさておいて、イエテボリ・テクニックはより多くのフッ化物を歯に残すことができるというものですね。

Al Mulla AH, Kharsa SA, Birkhed D.
Modified fluoride toothpaste technique reduces caries in orthodontic patients: A longitudinal, randomized clinical trial.
Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010 Sep;138(3):285-91.

 この研究はイエテボリ・テクニックを矯正中の患者さんに取り入れてみたという論文です。研究の対象となったのは歯列矯正を受けている100名の患者さん(介入群51名+対照群49名)です。介入群にはイエテボリ・テクニックのやり方を説明し、対照群の患者さんには介入群の患者さんと同じフッ化物配合歯磨剤を使用させ口腔衛生指導を実施しました。対照群と比較して介入群では臨床的なう蝕の発生率が87%、レントゲン上でのう蝕発生率78%、臨床的+レントゲンによるう蝕発生率が83%と減少していた。というもの。

 通常の患者さんと比較して矯正患者さんは歯ブラシが困難ですので、よりフッ化物の取り込みが必要になります。イエテボリ・テクニックによってフッ化物をより多く口腔内に残すことが出来れば、よりシビアな環境である歯列矯正中であってもう蝕予防につながると考えられます。

Sonbul H, Merdad K, Birkhed D.
The effect of a modified fluoride toothpaste technique on buccal enamel caries in adults with high caries prevalence: a 2-year clinical trial
Community Dent Health. 2011 Dec;28(4):292-6.

 この研究はビルクヘッド教授指導のもと、サウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ大学歯学部の先生による研究です。サウジアラビアはう蝕罹患率が高いので、そういう国で2年間イエテボリ・テクニックを実施してみたよ。という論文です。
 こちらも介入群と対照群に分け、介入群の患者さんには1日2回提供したフッ化物配合歯磨剤を使用し、イエテボリ・テクニックを指導した。対照群の患者さんにはその歯磨剤を使うよう指示しただけ。それで2年後に評価したもの。試験が完了し評価できたのは175名中113名だった。イエテボリ・テクニックを実施した介入群(56人)のエナメル質平均う蝕発生率は0.56本、対照群(57人)は1.01本で予防率は44%だった。という結果になっています。

 

 

5.なぜイエテボリ・テクニックはう蝕予防に効果的なのか

 

 簡単に言うとフッ化物配合歯磨剤で歯磨きした後の懸濁液(唾液+歯磨剤の泡)にはフッ素イオンが残されているわけです。歯磨きのついでにこの懸濁液を再利用して、フッ化物洗口剤でうがいしているのと同様の効果を期待するってことなのだと思います。

 素朴な疑問で、歯磨き後の唾液にどのくらいのフッ素濃度が残っていて、有効な濃度が保てているものなの?と気になったので、少しだけ調べてみました。

 JADAに掲載されたFeatherstone先生らの論文によると歯質の脱灰を抑制するとされるFイオン濃度は0.04ppmF以上とのことです。

 神奈川歯科大学の戸田先生らの発表では、市販のフッ化物配合歯磨剤(950ppm)での実験で、通常の歯磨きを3分間実施し、120分経過した後でも0.08ppmだったとしています。

 また、東京歯科大学の眞木先生の研究で、市販のフッ化物配合歯磨剤(950ppm)を用いイエテボリ・テクニックを実施した後の残留Fイオン濃度はブラッシング直後に平均15.29ppm、5分後に1.70ppmだった。従来のブラッシング法(+5秒間洗口を10回)での残留Fイオン濃度はブラッシング直後に平均0.92ppm、5分後に0.54ppmだったとしています。

 イエテボリ・テクニック直後は残留Fイオン濃度が15.29ppm、一方従来型のブラッシング法直後で0.92ppmだったとのことですので、イエテボリ・テクニックは、だいぶFイオンが残るんだなという印象です。

 

6.イエテボリ・テクニックのよくありそうな質問

 

Q 歯のフッ素症(斑状歯)にならないのですか?

  歯のフッ素症(斑状歯)は学問的に「①歯(エナメル質)の形成期に②過量のフッ化物を③継続して摂取した場合」に起こるものとされ、フッ化物に対して敏感なエナメル芽細胞の特異的反応と考えられています。6歳以上であれば臼歯であっても大体の歯冠は完成していて、水道水フッ化物添加(フロリデーション)やフッ化物錠剤がない日本だと長期間+過剰にフッ化物を摂取することは困難です。また、発生機序から局所応用(歯磨剤や洗口剤、塗布剤など)が班状歯の原因となることはありませんので、イエテボリ・テクニックを利用してもまず斑状歯は起こらないことが理解できます。

Q フッ化物中毒にはならないのですか?

 もしイエテボリ・テクニックで使用した1,450ppmの歯磨剤をまるっと飲み込んだとしましょう。1,450ppmの歯磨剤の場合、歯磨剤1gに1.45mgFのフッ化物が含まれています。大人の場合のイエテボリ・テクニックは1.5gほど、小児の場合のイエテボリ・テクニックは0.5gほど歯磨剤を使うとされています。それぞれ2.175mgF、0.725mgFとなり、一般に2.0mg/kgがフッ化物の中毒量と言われていますから、大人も子供も中毒量に到達することはありません。

Q スウェーデンの歯磨剤にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれていないから出来るんですよね?

 毒性があると敬遠されがちなラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate)ですが、スウェーデンで市販されている歯磨剤にも含まれています。そして15年以上口腔外科を専門にして大学病院で外来診療を続けていますが、歯磨剤の発泡剤として含まれているラウリル硫酸ナトリウムで粘膜が荒れたとか、がんになったとか、そういう症例には1例も出会ったことがありません。

 

 

7.まとめ

 

 イエテボリ・テクニックによるう蝕予防効果を高めるためにはできるだけ高濃度(1,450ppm)のフッ化物配合歯磨剤を使用し、より高い濃度を維持するのがポイントだと思います。

 スウェーデンではModified fluoride toothpaste techniqueから予防歯磨きのルールとして「2+2+2+2」キャンペーン、つまり1日「2」回、「2」cmのフッ化物配合歯磨剤をつけ、「2」分間ブラッシングし、「2」時間飲食しない。ということが提唱されています。いわゆるこれが所謂イエテボリ・テクニックと名付けられているのだと思います。

 研究の結果はおおむね良好な結果が得られているようですが、論文の数がまだ少ないので、さらなる臨床応用で効果を検証する必要がありそうです。

 科学的事実・背景を無視して「斑状歯になる」や「フッ素は危険」や「ラウリル硫酸ナトリウムが危険」とか言っている歯科医などがいますが、イエテボリ・テクニック自体に罪はありません。どう考えるかは自分自身で考えた方が良いと思います。

 今回は長くなってしまいました。和訳等、間違っている部分がありましたらご指摘いただけますと幸いです。

 

 

8.参考文献

 

Chesters RK, Huntington E, Burchell CK, Stephen KW.
Effect of oral care habits on caries in adolescents.
Caries Res. 1992;26(4):299-304.

Sjögren K, Birkhed D.
Factors related to fluoride retention after toothbrushing and possible connection to caries activity.
Caries Res. 1993;27(6):474-7.

Effect of a modified toothpaste technique on approximal caries in preschool children
Sjögren K, Birkhed D, Rangmar B.
Caries Res. 1995;29(6):435-41. 

Sjögren K, Birkhed D, Rangmar S, Reinhold AC.
Fluoride in the interdental area after two different post-brushing water rinsing procedures.
Caries Res. 1996;30(3):194-9.

Al Mulla AH, Kharsa SA, Birkhed D.
Modified fluoride toothpaste technique reduces caries in orthodontic patients: A longitudinal, randomized clinical trial.
Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2010 Sep;138(3):285-91.

Sonbul H, Merdad K, Birkhed D.
The effect of a modified fluoride toothpaste technique on buccal enamel caries in adults with high caries prevalence: a 2-year clinical trial
Community Dent Health. 2011 Dec;28(4):292-6.

Featherstone JD.
The science and practice of caries prevention.
J Am Dent Assoc. 2000 Jul;131(7):887-99.

戸田真司,走文群,荒川勇喜,荒川浩久
フッ化物配合歯磨剤の種類と唾液中フッ化物保持の関係
口腔衛生会誌2008; 58-4: P438(第57回 日本口腔衛生学会 抄録集)

眞木 吉信
フッ化物配合歯磨剤とチタンインプラント周囲炎の関連性
日口腔インプラント誌2017; 30巻3号 p. 174-181

う蝕予防の実際フッ化物局所応用実施マニュアル
日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会 社会保険研究所

新予防歯科学 第4版 米満正美ら 医歯薬出版

 

9.おすすめ

ご紹介するのは3回目ですが、この歯磨剤以上にう蝕予防になる歯磨剤はありません。

 


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