【エビデンス】適切なメインテナンスの間隔はどのくらい? 3か月?4か月?どれが正しいの?

投稿者: | 2021年10月28日
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 みなさんがお勤めの歯科医院のメインテナンス間隔はどのくらいですか?3か月ごと?4か月ごと?今回は「メインテナンスの間隔」についてエビデンスを紐解き,この問題について考えてみたいと思います.

 

1.「メインテナンス」と「定期検診」は違うもの

 日本では同じように用いられている2つの用語ですが,厳密に「メインテナンス」と「定期検診」は異なります.「メインテナンス」とは定期的に処置を継続することで良好な状態を保つことです.「定期検診」は読んで字のごとく定期的に検査・診査を行うことです.「メインテナンス」は継続的な治療の一環として行われるもので,「悪くならない」ことを目的に実施するもの.「定期検診」は一連の流れが終了して,また新たに検査をするという細切れの治療で「悪くなっていないか発見する」ことを目的に実施するものです.この2つを混同してしまうと話がちんぷんかんぷんになってしまうので,しっかりと区別して理解したほうがよいでしょう.

 患者さんに「いつ終わりますか?」「あと何回ぐらいかかるのですか?」と質問されたことはありませんか?きっと質問した患者さんはメインテナンスの意義やシステムを理解できていません.予防歯科やメインテナンスに終わりはないものです.しかし,日本の患者さんが歯科通院から早く解放されたいと願うのも理解できなくありません.予防歯科に携わるものとして「予防歯科やメインテナンスに終わりという概念はありません」ということを粘り強く理解してもらうべきだと考えています.

 

2.メインテナンスの目的・有効性は?

 メインテナンスの目的について日本の教科書を参照してみると,専門家がそれぞれの立場からのメインテナンスを記しています.例えば歯周病学の先生が歯周病学の観点からのメインテナンスを,う蝕予防学の先生がう蝕予防学の観点からのメインテナンスというように.しかし,開業歯科医・歯科衛生士にとってはう蝕も歯周病も矯正も義歯もインプラントも全てメインテナンスを実施する必要性があります.一般歯科医院に勤務し,メインテナンスを担当する歯科衛生士は広い視野からメインテナンスを実施することが求められるわけです.また,メインテナンスに限らず,予防歯科学は予測歯科学ですので,将来的な予後を予測しながらメインテナンスを実施しなければなりません.

 メインテナンスについて語るときに絶対に読むことになるイエテボリ大学のPer Axelsson教授の論文には「適切な口腔衛生習慣を身につけるように促す定期的な予防プログラムは,歯肉炎を解決し歯周病やう蝕の進行を防ぐことができた」「う蝕や歯周病,喪失歯の予防のため,定期的に高い水準の口腔衛生状態を維持することが推奨される」とメインテナンスの有用性・必要性について書かれています1).他にも歯科におけるメインテナンスの有効性について様々な分野から数多くの論文が発表されています.その多くの論文は歯周病学の治療後のメインテナンスについて書かれており,歯周病治療後のメインテナンスを遵守することは,歯の喪失の防止と関連している2)と報告する内容と意図を同じくする文献が多く存在しています.つまり,症状がある時に歯科医院に通院するよりも継続的に通院しメインテナンスを実施することによって良好な口腔内を獲得することが出来ることは,多くの研究によって証明され確かなエビデンスとなっています.

 

3.大切なのはメインテナンスよりもセルフケアの確立

 これまでメインテナンスの概要についてご紹介してきましたが,歯科医院でのメインテナンスよりもセルフケアの確立が大切というお話です.読者の方の歯科医院では,サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)や歯周病重症化予防処置(P重防),あるいは自費診療でのメインテナンスで何をしていますか?「メインテナンスでPMTCを実施している」というところがほとんどだと思います.PMTCをプラークを落とすことや歯の表面を磨くことと理解していませんか?ポリッシング(polishing)やプロフィラキシス(prophylaxis)との違いを理解できていますでしょうか?本セクションでは,少しだけメインテナンスによるPMTCに関するエビデンスをご紹介してみたいと思います.
 まず,ご紹介したいのが「メインテナンス時のPMTCがどの程度有効なのか」に関する論文です.歯科医院でのPMTCを48時間ごとに実施すれば歯肉炎の状態は悪化しない.しかし72時間以上空けると悪化するという研究データがあります3).2日に1度歯科医院に通院させることは現実的に出来ませんから,「歯科医院で実施するPMTCで歯周病を予防する」ことは困難であることが分かります.

 それでは,なぜ定期的なメインテナンスでPMTCを実施するのでしょうか?ぼくが考える3つの意義をご紹介してみたいと思います.1番目はセルフケアではケア出来ない,ハイリスク部位へのアプローチが可能であるということ.2番目はセルフケアのモチベーションを維持・向上させ,セルフケアをサポートすること.3番目はプラークリテンションファクター(プラーク重積因子)を早期に発見し是正することです.もちろん,個人的な意見ではありますが,日々予防歯科臨床に取り組んでいる先生方にはきっと共感してもらえるのでは?と思います.スウェーデンの予防歯科ではPMTCのようなプロフェッショナルケアよりもセルフケアが優先されます.以前,訪瑞した際にダン先生が「スウェーデンではセルフケアが出来ない患者さんには絶対に治療に入らない」と教えてくれました.歯ブラシが出来ない患者さんにスケーリングをしたり,フッ化物を摂取しない患者さんに修復治療をしても再発してしまうだろう?そんなことをして誰が喜ぶのだ?そんなことに何の意味があるのだ?と言われているようでした.つまり,PMTCは「メインテナンスによって健康な口腔内を獲得する」という目的達成のための手段であって,PMTCをすることがメインテナンスの目的・目標になってはいけないと思うのです.

 

4.適切なメインテナンスの間隔はどのくらいか?

 それでは,適切なメインテナンスの間隔はどの程度なのでしょうか?今回調べた研究では,短いもので2か月4)から長いもので18か月5)の報告があり,海外では伝統的に6か月に1度の受診が推奨されていることが多い6)との報告がありました.国内・外の色々な資料と合わせると3~4か月に1度の間隔を推奨していることが多いようです.

 メインテナンスの間隔に関する研究には2つのシステマティックレビューが存在しており,「24か月ごとのリコールと6か月ごとのリコールでは,う蝕や歯肉出血にほとんど差が無かった6)」とする報告が存在しています.また「定期的なスケーリングとポリッシングを行った場合と行わなかった場合では歯肉炎やプロービングデプスにほとんど差がなかった7)」とする報告が存在しています.しかし,臨床的な感覚では「メインテナンスの間隔による差はなかった」と片付けてしまうことに違和感を覚えます.こういった間隔による差はなかったとするレビューの一方,日本の論文に目を向けてみると,岡山大学歯学部の研究で「AL(アタッチメントレベル)では2か月と3か月のメインテナンス間隔の患者に有意な差がみられなかったが,PD(プロービングデプス)の6mm以上を有する歯数で差がみられた」と報告8)されているのを見かけました.

 メインテナンスの間隔について2つのコクランデータベースが存在し,間隔による違いは明らかではないと結論付けられていますが,調査対象とした研究デザインがバラバラで,適切なレビューになっていないようにも感じます.この結論への理解は非常に難しく,そのまま臨床に取り入れることは難しいと感じました.ただ,2つのレビューは3か月ごと,4か月ごとあるいは6か月ごとというような単純なメインテナンス間隔には,そもそも意味がないのだということを意味しているのかもしれないなと考えるようになりました.

 

 

5.どうメインテナンス間隔を決めるか

 単純に3か月とか4か月と設定するメインテナンスの間隔に,質の高いエビデンスを見つけることができませんでした.日本では個々の患者さんの疾病リスクを無視して一律3か月に1回や4か月に1回などとメインテナンス間隔が設定されているように感じています.実際にメインテナンスの間隔を決める際には何を診査し,判断するべきかを考えてみました.

・歯周ポケットや根分岐部病変など
・糖尿病などの基礎疾患
・喫煙
・歯周基本治療や歯周外科手術からの期間
・唾液分泌速度(量)
・プラークリテンションファクター(プラーク蓄積因子)
・ブラキシズムなどの習癖
・モチベーション,セルフケア・予防への関心度・協力度
・プラーク細菌の病原性
・フッ化物応用
・食習慣
・う蝕活動性
・修復物や義歯の適合度
・歯ぎしりや食いしばり
・義歯の使用頻度や清掃度
・クラスプの適合,テンション
・粘膜疾患
・顎関節疾患 …

 

 例えば,口腔がんのリスク因子をメインテナンスに含めると「飲酒」も入ってきます.歯肉炎のリスク因子には「妊娠」も入ってきます.もちろんメインテナンス間隔を決定する因子は疾病リスクだけではないと思います.広い意味でとらえると,年齢,所得,機能障害,教育レベル,手先の器用さ,食べているものや咬み方や姿勢なんかも関係しそうです.高齢の方などは認知機能もしっかりと判断していく必要があります.

 いわゆるかかりつけ医であるGPはすごく多くのチェック項目があることがわかります.これだけを判断しなければならないわけですから,実にメインテナンスは大変です.しかし大抵,簡単な仕事に価値はなく,大変だからその仕事に価値があることが多いです.大学のように専門性を持って診療にあたるのもよいと思いますが,GPならではの「難しさ」と「やりがい」がこのメインテナンスにはあるなと感じました.

 

6.まとめ

 歯科医院による3か月ごと4か月ごとという一律のメインテナンスに違和感を覚え,大学勤務医だった時の口腔がん治療後のフォローアップを思い浮かべました.口腔がん治療後のフォローアップは術後化学療法の有無や病理診断(悪性度),手術からの期間で1か月1度,3か月1度,6か月に1度に変化します.再発のリスクや体調の変化に気を配っています.再発を見逃すわけにいきません.治療結果にコミットする(責任を持つ)ということでもあります.一律3か月に1回などとせず,歯周病やう蝕リスクの高い患者さん,インプラント治療後や歯周外科手術後などはメインテナンス間隔を短くし,セルフケアが確立され疾病リスクの低い患者さんはメインテナンス間隔を伸ばすなど,患者さん一人ひとりに最適化されたメインテナンス計画を立案するとよいでしょう.

 ・「メインテナンス」と「定期検診」は異なる.それぞれを理解することが大切
 ・単純なメインテナンスの「間隔」による差に質の高いエビデンスはない.
 ・メインテナンスの間隔が良否を決めるのではなく,質によって良否は決まる.
 ・メインテナンスでは,PMTCよりセルフケアへのアプローチが大切.
 ・パーソナライズ(個別化)されたメインテナンスを提供する.
 ・メインテナンスやPMTCをすることが目的であってはならず,口腔内の健康を維持・増進することを目的にする.
 ・担当者(多くの場合歯科衛生士)は広い視野と将来的な予後を基にメインテンナンスを実施するため,高いレベルが求められる.

 今回は適切なメインテナンスの間隔はどのくらい?というテーマでエビデンスを基に紹介してみました.単純にメインテナンス間隔を3か月や4か月とせずに,疾病リスクなどを総合的に勘案し,パーソナライズされた間隔を立案するとよいと思います.また,患者さんはプラモデルではありませんから,間隔と同様に,全ての方に画一的な内容でメインテナンスを提供しないように注意したいものです.

 

 

7.参考文献

1) Axelsson P, Nyström B, Lindhe J. The long-term effect of a plaque control program on tooth mortality, caries and periodontal disease in adults. Results after 30 years of maintenance. J Clin Periodontol. 2004 Sep;31(9):749-57.

2) Fardal Ø, Johannessen AC, Linden GJ. Tooth loss during maintenance following periodontal treatment in a periodontal practice in Norway. J Clin Periodontol. 2004 Jul;31(7):550-5.

3) Lang NP, Cumming BR, Löe H. Toothbrushing frequency as it relates to plaque development and gingival health. J Periodontol. 1973 Jul;44(7):396-405.

4) Axelsson P, Lindhe J. Effect of controlled oral hygiene procedures on caries and periodontal disease in adults. Results after 6 years. J Clin Periodontol. 1981 Jun;8(3):239-48.

5)Rosén B, Olavi G, Badersten A, Rönström A, Söderholm G, Egelberg J. Effect of different frequencies of preventive maintenance treatment on periodontal conditions. 5-Year observations in general dentistry patients. J Clin Periodontol. 1999 Apr;26(4):225-33.

6) Fee PA, Riley P, Worthington HV, Clarkson JE, Boyers D, Beirne PV. Recall intervals for oral health in primary care patients. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 14;10(10):CD004346.

7) Lamont T, Worthington HV, Clarkson JE, Beirne PV. Routine scale and polish for periodontal health in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Dec 27;12(12)

8) 山本 龍生, 竹内 倫子, 坂本 友紀, 村上 千春, 友藤 孝明, 恒石 美登里, 渡邊 達夫 歯周治療のメインテナンス間隔を決定する要因. 口腔衛生学会誌2005, vol55, no.3, P207-9

 

 

8.おすすめ

 

 

 どうってことはない文献集ですが,専門外の先生や歯科衛生士さんがザッと読むには良いかもしれません.

 

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